内容説明
著者は歴史家として、シベリア抑留を北東アジアの歴史と地政学のなかに置き直し、分析に有効な例として香月泰男、高杉一郎、石原吉郎を選び出した。苛酷な抑留体験をした彼らの戦中戦後を感性鋭くたどりながら、喪失の意味をさぐる。国家が責任をとらずに、特権階級だけが真っ先に難を逃れる構造はいまもかわらない。
目次
序章 神々は真っ先に逃げ帰った
第2章 歴史の中のシベリア抑留
第3章 香月泰男とラーゲリの世俗的世界
第4章 苦しんで得られた知―高杉一郎とシベリアの「民主運動」
第5章 石原吉郎―最も良き私自身帰っては来なかった
終章 藤原てい―引揚者たちの苦難
付表 何人捕われ、何人死んだか?
著者等紹介
バーシェイ,アンドリュー・E.[バーシェイ,アンドリューE.] [Barshay,Andrew E.]
カリフォルニア大学バークレー校歴史学教授
富田武[トミタタケシ]
1945年福島県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。成蹊大学名誉教授。専門はソ連政治史、日ソ関係史、シベリア抑留(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Toska
3
香月泰男(画家)、高杉一郎(評論家)、石原吉郎(詩人)という3人の体験者を通して振り返るシベリア抑留。率直なところ、三者ともあまりに傑出した個性の持ち主であるため、ここで語られる抑留像を普遍的なものと見ることは難しい。だが、これら非凡な人々の視線を借り、一点集中のような形でシベリア体験を読み解くという意味では興味深い試みと感じた。また、第二章では抑留の背景が広い視野で解説されており、上記の問題を多少なりとも補ってくれている。2021/08/11
riri4125
1
タイトルから想像したような内容ではなかった(もっと、「真っ先に逃げ帰った」側の経緯が描かれているかと思った)が、シベリア抑留について3人の文化人の視点・立場の違いから考察した点は興味深かった。もっとも過酷で死者も数多く出た最初の1,2年、待遇改善が図られ現地ロシア人との交流も生まれた3,4年、そして抑留者たちのうちのインテリをスターリン社会主義のシンパとして教育していった時期と、抑留期間にも段階があることがわかった。ただ、研究者による翻訳のせいか、意味不明の直訳らしきものが散見されてやや読みづらかった。2022/08/28