内容説明
夫人が描く人間太宰治。偶像視されてきた作家の予想外の人間性と生活、事実を丹念に記録し、作品の背景と成立事情を的確に考証する。
目次
御坂峠
寿館
御崎町
三鷹
甲府から津軽へ
書斎
初めて金木に行ったとき
白湯と梅干
千代田村ほか
津軽言葉〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
冬見
19
太宰治の妻・美知子夫人による回想記。家庭の中から見た太宰の姿は新鮮だった。が、なんというか、どこまでも父親の匂いがしない男だなあ。全体的に薄い膜一枚隔てたような印象。時間が経ってからの回想だからなのか冷静。思い出に浸るような感傷的な雰囲気もなく。おじかすの謎が解けて良かった。『惜別』ノートの章の伊藤佐喜雄の引用にあった、会に遅刻した川端のくだりが面白くて思わず笑った。太宰について書かれた文章をいくつか読んでなんとなくイメージが出来上がってきたけれど、ここに来てまたよくわからなくなってきた。2018/06/01
Monsieur M.
13
太宰夫人はしっかりした文章を書かれ、鋭い観察眼をお持ちのとても賢い方だったことが、よくわかった。太田静子の「斜陽日記」を読んだときにも思ったけど、太宰は作中の姿が誇張でもなんでもなく、見事なダメ男っぷり(苦笑)。いくら才能があって(少なくとも若いころは)いい男だったからといって、こんなに情けない男があんなに女性にモテるものなのかなあ。夫人も、「自分と子どもたちを放ってほかの女と心中して死んだ夫のことなど、思い出したくもない。本にまとめるなんて、もってのほか」となってもおかしくないと思うが、2018/05/18
千頼
6
他の女の影が全く出てこないあたり、お見事だった。まるでごく普通の夫婦のお話。夫婦にしか分からない夫婦の心情。太宰の色んな愛人が(そして私がもしも太宰の愛人だったら)これ読んだら相当悔しいだろうな…あまりにも夫婦であり家族の話なんだもんな。どんな偉い人に不倫はよくないと言われるより、どんなに切ない恋愛ドラマが不倫の末路を書くより、もう何よりも不倫の愚かさを感じた一冊だったけど、そういう目線で読む本ではなかったんだろうな…愛人よりたけへの嫉妬を感じた。女というよりも家族としての嫉妬。[図書館本]2021/03/21
ゴロチビ
4
太宰の全集に一部が併録されているのを読み、あまりに面白かったので早速借りてみたものの、作品にまつわるエピソードを読む度にその作品が読みたくなり、遅々として進まず、結局、諦めて読了した。太宰を評して「若様のように扱って欲しいのに子供でも老大家でもないから」「皮を剥かれた因幡の白兎のように傷付き易い」「弟子に囲まれたキリストのような絶対者でありたがる」等、容赦無い。金木での疎開生活を通して見聞した津軽言葉や北国の合理的な暮らし、食生活等についての解説も客観的で面白い。もう仕方無いので中古本の購入を決断する。2017/08/26
星野紗奈
3
桜桃忌の少し前あたりから読んでいた。たまたま図書室の一角で見つけて、表紙がほぼ白地に茶色のシミだったので気になり借りた。もともとはこんな絵柄のカバーがついていたのかとここで検索して驚いた。綴られた文章を読んで、奥さんが本当に太宰治をよく見ていたんだなと感じた。太宰治の新たな一面を知ることができて良かった。2019/07/22