内容説明
なにが本当の喜びなのだろう?あなたはなぜ書いたのか、一人で子を成す孤独を。あなたも知っていたのか、子を奪われる苦しみを。千年の時を超え、平安時代の王朝物語「夜の寝覚」の作者とともに、人間の幸福の意味を問いかける名著。
著者等紹介
津島佑子[ツシマユウコ]
1947年、東京都生まれ。白百合女子大学卒業。76年『葎の母』で第一六回田村俊子賞、77年『草の臥所』で第五回泉鏡花文学賞、78年『寵児』で第一七回女流文学賞、79年『光の領分』で第一回野間文芸新人賞、83年「黙市」で第一〇回川端康成文学賞、87年『夜の光に追われて』で第三八回読売文学賞、89年『真昼へ』で第一七回平林たい子文学賞、95年『風よ、空駆ける風よ』で第六回伊藤整文学賞、98年『火の山―山猿記』で第三四回谷崎潤一郎賞及び第五一回野間文芸賞、2002年『笑いオオカミ』で第二八回大佛次郎賞、05年『ナラ・レポート』で第五五回芸術選奨文部科学大臣賞及び第一五回紫式部文学賞、12年『黄金の夢の歌』で第五三回毎日芸術賞を受賞。2016年2月18日、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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燃えつきた棒
44
次は、津島さんの本にしようと決めていた。津島さんの本を読むと、いつも深く癒されるのは、彼女の文章の中にある「悲しみ」が、僕の心の中のそれと共振しているからではないかと気づいたから。 小説は、作者自身とも思われる小説家の主人公が、平安時代に書かれた「夜の寝覚」の物語を、自ら改めて書き直すことによって、物語のヒロイン珠子の悲しみに寄り添おうと試みるという結構を持つ。 主人公が亡き子の遺灰の一部を、子の父親である男の元へ届けにいくストーリーと、「夜の寝覚」のヒロイン珠子の物語が交互に語られる。2020/06/06
かもめ通信
25
『津島佑子コレクション』第2巻は、まるまる1冊、1987年に発表され、第38回読売文学賞を受賞した『夜の光に追われて』に当てられている。語り手である「私」は作家で、既婚男性との間に男の子どもをもうけたが、その子は9歳で突然亡くなってしまったため、その死を悼み、孤独と喪失感にさいなまれている。そんな「私」が千年の昔に書かれた『夜の寝覚め』の作者に宛てて手紙を書くことから物語は始まる。読み終えたとき、作家が物語の書く意味を自らに問い続けるように、読者もまた読むことの意味を問い続けているのだと気づいた。 2017/12/04
ソングライン
6
息子を亡くした喪失感を抱える私は、1000年の昔、同じ思いを抱いたであろう「夜の寝覚」の作者に向け、長い手紙をかきます。そこから語られる私の描く「夜の寝覚」。自らの意志では逆らうことのできない死、愛しいひととの別れ、それらが遠くに感じられる現代でも悲しみはおなじです。息子との死別から1年、物語の最後、登場人物と私との時を超えた会話は、永遠と続いていくかもしれない魂のつながりを感じさせます。山梨県立文学館の津島佑子展にて、堀江敏幸がこの作品の冒頭を朗読したのを聞き、早速読んでみました。おすすめです。2017/11/24
amanon
3
十数年ぶりに再読。その内容の殆どは忘却の彼方だけれど、それだけに様々な発見があったのも事実。何より恐らく最初読んだ時には感じ得なかった著者の思い、愛息を亡くすという未曾有の経験を文章に綴るという行為に、物を書くというのは、物語を紡ぎ出すというのは一体どういうことなんだろう?ということを改めて考えさせられたというな気にさせられたというのが大きい。また、著者のカトリック洗礼の背景を思わせる場面が散在するのも興味深い。そのかなりの部分が失われた古の物語を自らの物語へと昇華させる著者の思いは何なのだろう?2018/01/06
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