内容説明
立ち上がった彼女はバランスを崩してよろけた。「あなたっ」と、彼女は悲鳴をあげた。ピッケルを放して両手で雪をつかんだ。男は彼女を谷に突き落とすチャンスをねらっていたのに、彼女は自ら谷に落ちかけているのだ。両手の指を雪に突き刺して、からだの滑りを必死にこらえていた。男は一歩退いた。彼女に足首をつかまれそうだった。彼女の赤い口だけがはっきり見えた。「なぜなの?」といっているようだった…。
著者等紹介
梓林太郎[アズサリンタロウ]
1933年、長野県に生まれる。1980年、「九月の渓谷で」で、第3回小説宝石エンターテインメント小説大賞を受賞し作家デビュー。以後、山岳ミステリーの第一人者として人気を博している
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