内容説明
朝のラッシュ時に電車が緊急停止。授業に向かおうとしていた大学生、バイトに遅刻しそうなフリーター、トイレに行きたくなったデザイナー、恋人の部屋から会社に向うOL、自宅から出られなかった引きこもり、駅のホームで女性駅員は…アクシデントに遭った六人の男女それぞれの物語。仕事に恋に、止まっていた心が再び動き出す。人生応援小説!
著者等紹介
畑野智美[ハタノトモミ]
1979年東京都生まれ。2010年『国道沿いのファミレス』で第23回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年に『海の見える街』、14年に『南部芸能事務所』がそれぞれ吉川英治文学新人賞候補となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんたろー
182
電車が止まったことで影響を受けた男女の群像劇…彼らには繋がりがなく(少しだけリンクしている部分もあるが)各々の数時間を見せる話。畑野さんらしい文章で若者らしい本音が表現されていて、50代の私にも「そうなんだろうなぁ」と理解できるのが嬉しい。誰もが甘ったれていたり、考えが浅かったりするのでイライラするが「自分が20代の頃も似たり寄ったりだったかも」と苦笑いしつつ親近感さえ抱いてしまう。チョッとだけ好転して終わるストーリーなので後味はイイが、その転機をもう少しだけ丁寧に描いてくれれば更に良いのにとも思った。2018/11/14
あも
96
ハチクロで野宮が真山を「自分が必死で脱ぎ捨てた青春スーツを無自覚に着てるのを見るキツさ」と評していたが、畑野さんの振るう彫刻刀で毎度毎度、心をザックザク削られる理由がそれ。創作における心情描写って当然に人に見せるのが前提で、修辞が入らない筈ないのに、飾りも衒いもなさすぎて怖い。そんなトコまで見透かさないで。失った筈の若さに、捨てた筈の青さに、諦めた筈のままならなさに身悶えた過去が甦る。失って初めて価値に気付くなんて大人ぶってたくせに、脆さも弱さもまだ自分の中にあるやん…と否応なく見せつけられて傷だらけ笑。2018/10/12
yuyu
92
ほんの些細な事が人生を変えることがある。突然の電車の運転見合せによって、翻弄される若者たち。ついてないなぁと落ち込む彼らが少しだか、明るい方向に向かっていく。大学生、フリーター、デザイナー、OL、引きこもり、女性駅員、みんなモヤモヤした思いを抱えて生きている。若いから、まだ人生に開き直れないもどかしさがある若者たち。リスタートできる彼らが羨ましくなった。すでに、開き直ってしまっている自分は…うーん。2018/11/26
papako
81
勢いで畑野作品。これは、今まで読んだ作品に比べると、読んでいてちょっとイタい内容。電車が止まった。その時彼らは?それぞれの若者の悩みが描かれるが、結論も何も出なくて、あとはご想像におまかせという終わり。少し希望のあるものもあれば、なんとなくそのままって終わりも。フリーターのだめだめな感じとか、デザイナーのイタさとか、OLののぞみも、すごく分かる気がして、自分を読まされてる気がした。だから苦い読書でしたが、楽しめました。これはこれで良かったかな。2018/11/08
dr2006
74
ある朝トラブルで電車が止まってしまい、不運にも駅前やホーム、電車内に居合わせた人たちの特別な一日を描く連作短編。類似プロット「終電の・・」があるが、この作品は、人々が抱えている事情や境遇の掘り下げが深い分、心情描写を鮮やかに浮き立たせ、そのダイナミックレンジも広くなっていると思う。作者は若さによる青くささと欲求不満、責任転嫁等を淡々と且つ赤裸々に描いていており、時に読者をハラハラさせるが、エンディングでは良い方向への余韻を残しており(と読解した)心地よい読書感を演出している。そんな畑野さんの小説が好きだ。2018/10/03