出版社内容情報
作家として立つ。少女の頃からの夢とともに上京したツタが辿る運命とは。幻の女流作家の生涯を描く感動作。著者の新境地。
内容説明
新たな名前を持つこと。心の裡を言葉にすること。自分を解放するために得た術が、彼女の人生を大きく変えた―。明治の終わりに沖縄に生まれた「幻の女流作家」の数奇な運命。一作ごとに新しい扉を開く『ピエタ』の著者、会心作!
著者等紹介
大島真寿美[オオシママスミ]
1962年愛知県名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で第七四回文學界新人賞を受賞。2012年『ピエタ』で第九回本屋大賞三位(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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chimako
85
身体の内に留め置けないほどの迸るような熱情をもて余すのはさぞかし難儀な事だっただろう。沖縄の裕福な家に生まれ育った少女ツタ。自分は一体何者なのか、何者かになりおおせるのか、何がしたいのか、何を求めているのかと、いつも自問する。結婚相手の書いた物語を読み、この人ならばと一緒になり、子をなし、なにものにも替えがたい我が子を亡くし、初めての恋をする。やがて家を出、恋人と暮らし、筆を執る。やっと認められたと思った矢先、その筆が禍となり郷里からも総攻撃を受け筆を置く。波瀾万丈だが物音は静か。幻の女流作家一生だった。2021/06/16
なゆ
76
なんだか不思議な読後感だった。ある沖縄生まれの女性の一生を辿るなか、強い思いがあるようでないようで。ツタは、あるいは千紗子は書きたかったのだろうか。それとも書くことに絶望してしまったのだろうか。読んだ後で、この話が実在の人物から着想を得て描かれたものだと知って、この掴みどころのない感じもありかなと。いまわのきわの、走馬灯が巡るような感じでツタの人生を眺めるような文章がどこか心地いい。2016/11/03
ann
69
考えさせられた。とても考えさせられた。実在の人物モデルがいらっしゃる。ひとりの人生の感想を述べる立場にいない自分。いまわのきわに、自分は何を思うのだろう。2016/11/24
星落秋風五丈原
57
ただ書くというだけでは作家になれない。自主にせよ商業にせよ、作品を発表する場があり、自分の意志通りに物語を完結させられてこそ、作家と認識される。もっと欲張れば「一定の評価を得ること」が加わるだろうが、これは生憎作者の意志だけではどうにもならない。最低限、自分の望む形で作品を完結させ、世に出す事が出来ればよしとすべきだ。全く書いたことのない人からすれば「ただ、それだけ?」と言われるような過程かもしれないが、ツタにとっては「書きたい」と思ってからゴールまでが、果てしのない道だった。2016/10/26
むつぞー
47
主義主張ではなく、書きたいものを書いただけ、でも受け取った人が勝手に色をつけます。 言いたいことが言い切れないような、書いたものにこうじゃないんだけどみたいな、上手く言葉にできないもどかしさが心に残ります。 新しい名前を得て何者にもなれる自分。何者にもなれない自分。 行間にすごいたくさんのものが隠れています。 それが書いてないともどかしく感じるのか、それが書けないともどかしく感じるのかは、大きく違うものでありましょう。 人の人生は色々あるもんだよ…と、語るような作品でしょう。2016/11/14