内容説明
新選組が鳥羽伏見の戦に敗れ、大坂を去る日、ただたんにくたくたに疲れ、望郷の念にかられた者もいただろう。自分の未来に絶望した者もいただろう。だが、彼らはまちがいなく激しい剣の日々を闘った英雄の群れだった。なかでも若き剣士・沖田総司は心やさしき詩的な行動者であった。芹沢鴨を斬り、松田重助、宮部鼎蔵、吉田稔麿を斬り、隊員山南敬助切腹の介錯をした沖田総司―その二十五年の光芒の生涯は歴史であり、伝説である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えみ
53
もう沖田総司の死では泣けないと思っていたのに…。抗体の出来ていない僅かな隙間を狙って突いてくる衝動に何度目かになる彼の別れに涙した。その中でもやはり土方歳三との別れは家族とも新選組としての仲間とも違う、一つの魂が裂かれるような悲痛な別れだと感じている。剣士として死にたい、それを聞きわけてやりたい。という想い。置いて行かないでほしい、魂だけは連れていく。という強い気持ち。どちらも数多の死闘を生き抜いてきた武士で、分別のつく立派な大人という付録が切なさに拍車をかける。儚く優しく強い、大内版「沖田総司」も好い。2022/03/26
ポチ
50
大内さんの沖田総司は優しく暖かく、儚い。爽やかな風が吹き抜けて行ったような読後感。いい本です。2017/09/10
いちろく
49
キレイなジャイアンならぬ、キレイな沖田総司だ。「心優しき詩的な行動者」のあらすじに偽りない沖田総司だった。歴史小説は、同じ出来事が描かれていても、著者の描き方で印象が変わる事は理解している。その事をページを捲りながら改めて納得した。ヒトの感想が十人十色な様に、著者が創り上げる沖田総司も、著者の数だけ存在するのだ、と。沖田総司に憧れる、沖田総司が好きな人に好印象な、沖田総司好きには堪らないと思われる、1冊という印象。けして悪く書いているのではなく、私にとって著者が創り上げる人物像について意識する作品だった。2018/03/06
ゆず
18
友人に借りて再読。 新撰組の小説の中では、「燃えよ剣」の次に好きな小説です。 近藤・土方を敬愛し、また支え続けてきた総司。 隊士たちとの交流、池田屋事件、そして病の発覚。男勝りな女医・環に抱く、淡い恋心や、慕っていた山南の脱走事件。平助の裏切り。だんだんと蝕まれてゆく体。 もし彼が労咳に犯されず、生涯、土方と背中を預けあう剣士として生きられたなら…、と思うと胸が苦しくなります。 最期、菊一文字で斬れなかった猫。 その猫は、総司自身の不治の病を暗示しているのではないか、そう思わせるような切ないラストでした。2013/04/27
エル
11
沖田総司目線の物語。だからか、出来事はさらりと、江戸へ戻ってから亡くなるまでにページが割かれている。総司の心情、無念さが痛いほど伝わってくるラスト。近藤勇や土方歳三とのやり取りも胸に迫る。優しく爽やかな青年で、こうあってほしいという理想の沖田総司を見ることが出来る作品。とても読みやすくていい本でした。2022/01/09