内容説明
アイと富士子は、二十年来の友人・益恵を“最後の旅”に連れ出すことにした。それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。大津、松山、五島列島…満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは?旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、老女たちの運命は急転する―。
著者等紹介
宇佐美まこと[ウサミマコト]
1957年、愛媛県生まれ。2006年「るんびにの子供」で第1回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞。2017年『愚者の毒』(祥伝社文庫)で第70回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
674
宇佐美 まことは、新作中心に読んでいる作家です。タイトルから、ほんわかした三老女終活の旅物語かと思いきや、戦争悲劇ミステリの秀作・感動作でした。少し気が早いですが、今年のBEST20候補、本日第164回直木賞が発表されましたが、次回の第165回直木賞受賞作で良いかも知れません。2021/01/20
馨
610
認知症を患う益恵、親友の富士子とアイが、益恵が過去に暮らした土地を旅する話。壮大でラストに若干ハラハラ。読了後表紙を見てあの場所だと納得。県民として松山の情景は巧く書けていると思った。益恵が口にする佳代ちゃん、女優月影なぎさ。どんどん事実が解明され流れも巧い。満洲引揚はあまりにも過酷で辛く地獄。言葉が出ず目を背けたくなる。益恵はそこで死ぬ運命ではなかったから生き抜いた。同じ様に生き残って下さった方々、戦後も記憶に苦しまれた方々も多いと思う。ありがとう。犠牲となった方々、安らかに。2022/02/18
青乃108号
567
満州での悲惨な幼少期を逞しく生き抜いた2人の少女。互いに助け合いながら、あっちこっちで本当に地獄の様な苦労をした挙げ句、2人はようやくの思いで祖国に帰還。それぞれの人生を歩みはじめたのだが…それまではいい感じで進んで来たストーリーが突然、そう、あまりに突然【火曜サスペンス劇場】に変わってしまうのでびっくり仰天させられる。何が起きたのかすぐには把握出来ず、ははぁ、これはこういうネタ的狙いで書かれた本なのね、と納得する。にしては全体的にちと長すぎだろう。 2022/07/28
ウッディ
518
認知症になった益恵の人生を振り返る旅に同行したアイと富士子。大津、松山そして五島列島をめぐり、戦後の満州で過ごした壮絶な過去と佳代との友情と二人の秘密に触れ、過去を語らなかった益恵の強さと優しさの理由を知る。親を失い、見知らぬ地で生き抜き、帰国した二人の少女、戦争体験でPTSDになった夫を支えた過去、戦争の傷痕も、今は平穏に暮らす一人の女性の心の内を表すようなのどかなタイトルと装丁でした。ラストに描かれる殺人未遂は、あまりに都合よい結末で、なくてもよかったような気がするが、壮大な物語は読み応え十分でした。2021/12/21
nobby
506
生きる…それは今、自分にとって当たり前の日常だ。そこには過剰な怠惰も極端な苦難もなく、幸い適度な気楽がある。一方で、同じ国に暮らしながら、一世紀に満たず早く生まれた境遇だけで、それが生き延びるに変貌することに打ちひしがれる…自らの手で赤子に手をかける、時代を問わず起こる悲劇に何と事由の異なることか…日本人として知らねばならない史実がまた此処にある…多くを語らない認知症女性の生きてきた痕跡を辿る様と、彼女による俳句から思い起こされる回想が徐々に繋がる構成が素晴らしい。終章での作者ならではの伏線回収もお見事。2021/02/13