内容説明
「ママナラナイわね、お互いに」斉藤尚弥は不動産会社に勤務する三十六歳。近頃、何もかもうまくいかない。男性器も心も折れてしまい、おまけに仕事も絶不調―通称“川の家”と呼ばれる高台にある家に住む、夫婦への立ち退き交渉が難航していたのだ。夫人によれば、立ち退きを強く拒否しているのは夫の方らしいのだが…。夫人の協力を得て交渉を続けるうちに、やがて思いもよらない事実が判明し―(表題作)。この世に生を享け、大人になり、やがて老いるまで―ままならぬ心と体を描いた美しくも不穏な、極上の10の物語。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。89年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞を受賞しデビュー。2004年『潤一』で第一一回島清恋愛文学賞を受賞。08年『切羽へ』で第一三九回直木賞を受賞。11年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞を受賞。16年『赤へ』(祥伝社刊)で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。18年『その話は今日はやめておきましょう』で第三五回織田作之助賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
254
井上 荒野は、新作中心に読んでいる作家です。本書は、ままならぬ心と体を描いた美しくも不穏な、10の短編集でした。オススメは、表題作『ママナラナイ』&甘酸っぱい青春恋愛譚『約束』です。【読メエロ部】2020/11/26
いつでも母さん
184
タイトル作作を含む10話のままならない人間を描いた短編集。井上さんの世界だなぁと思いつつ読んだ。『檻』『静かな場所』『十七年』『顔』『約束』が良かった。中でも『約束』が好き。2020/11/05
みっちゃん
174
見てはいけないものを覗き見しているような気分にさせられる。むらむらと立ち上るような不穏な空気にざわざわと胸が騒ぎ、鳥肌が立つような。「ここからどうなるの?」の期待をぶちり、と断ち切られるようなラストにさらにフラストレーションが高まる。井上荒野さん、初読みだが、結構コワイ作家さんなのか。その中で突然生徒会長に立候補する羽目になった落ちこぼれ男子の心の揺れ動きと決断を描いた「約束」はすっきり、読後感良し。2020/12/23
モルク
130
心と裏腹な様々なママナラナイ思いを描いた10話の短編集。最初の「ダイヤモンドウォーター」の狂気にぶっとび、「静かな場所」は思わずやってやった!とにんまり。日常の中の非日常、現実の中の非現実。確かにままならないね。2021/04/13
おくちゃん🌷柳緑花紅
115
これぞ井上荒野作品っていうザラザラ感。ヌメヌメ感。ザワザワ感。小さな嫌悪感。ママナラナイ心と身体は誰にでもあると思うが短編10の内わかるなぁって読めたのは「檻」だよねと思ったのは「静かな場所」「おそろしいのは、これは結果ではなくても過程であるとしか思えないことだ」の《顔》私はママナラナイを越えて諦念に至っている(笑)2021/05/22