内容説明
女手ひとつで僕を東京の私大に進ませてくれた母が急死した。僕、柏木聖輔は二十歳の秋、たった独りになった。大学は中退を選び、就職先のあてもない。そんなある日、空腹に負けて吸い寄せられた砂町銀座商店街の惣菜屋で、最後に残った五十円のコロッケを見知らぬお婆さんに譲ったことから、不思議な縁が生まれていく。本屋大賞から生まれたベストセラー、待望の文庫化。
著者等紹介
小野寺史宜[オノデラフミノリ]
千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、08年「ROCKER」でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。本作『ひと』が2019年本屋大賞第二位に輝きベストセラーに(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
398
二十歳で天涯孤独は辛いと思う。聖輔の性格なら尚更だ。根は優しいのだろうけど、どこか優柔不断っぽくて流されやすい。一人で抱え込むし、どこか頼りないし、たぶん一緒にいたらイライラするかもしれないかな。でも、聖輔の本質は、きっとよく考えて、ここぞの時の判断は間違わないのだろうと思った。そんな清助だからこそ、周りがほっとけなくて、素敵な縁ができたのだろう。聖輔の周りの人はいい人ばかり。それは聖輔がしっかり徳を積んだから。何かあったら俺に頼れと言える頼れる側の人になりたいと思った。温かさが滲み出る物語だった。2022/09/18
mae.dat
323
コロッケの様にホクホクで、メンチカツの様に滋味に美味い。そんなお話かなぁ。派手さは無い。道徳心や倫理観の感度が同じ位。そこ迄大仰な事で無くても、ささやかな心遣いとか、踏み込んでは行けないラインとか、そう言った感覚が一緒だと居心地が良さそうですね。ちょっとした喜びとか。そうで無いと疲れちゃうね。両親を失った柏木くんの成長物語。お金には困窮気味だけど、芯が強くて、現実を見据えて一歩一歩確実に進んで行くよね。そんな柏木くんを応援したくなるし、周りからも応援を受けるよね。恩を受けっぱなしでも無い距離感も良い。2024/03/22
ひさか
257
2018年9月祥伝社刊。書き下ろし。2021年4月祥伝社文庫化。小野寺さんの他の作品にもある、会話や考える時のテンポが絶妙。そのテンポの良さに乗って展開する出来事は心に響き、強く印象に残ります。このお話の先、誠輔はどうなるのかというのがちょっと気になります。2022/02/20
Kanonlicht
243
両親を亡くし、通っていた大学も辞め、故郷の鳥取から遠く離れた東京で天涯孤独の身となった主人公。取り巻く人たちの中には、助けてくれる優しい人が大勢いて、できれば関わり合いたくない人も少しだけいて、いい人なのか悪い人なのか判断つかない人も一定数いる。一人の人間関係の中に世の中の縮図を見るようだ。優しい人を周りに集めたいと思ったら、彼のように誠実に生きればいい、そんなことを教えてくれた気がして、タイトルの「ひと」に深い意味が込められていると感じた。2021/11/30
ALATA
212
母親を亡くし一人の秋に、大学を辞め一人の冬になった。父親の面影を追う一人の春。孤独の影を背負う聖輔に様々な困難が訪れる。それでもコロッケ屋の夫婦 、映樹さん、川岸親子みんなが気遣い、見ていてくれる。聖輔は一人じゃないんだ、みんながやさしくて、あったかい、こんな街に住みたくなった。夏が来て旅立ちを迎える姿、そして「おれは青葉が好き」。著者はこれが描きたかったんだろうな★5※「神様が頑張ってくれますように」とお願いする。一人じゃないんだ、ゆっくりと行こう。何事も欲張ることは良くない。 2023/06/06