内容説明
母が住み込みで管理人兼料理人を務める藤田一家の別荘を訪れた昌。一家と昌母娘の団らんはいつもの光景だったがこの夏は少し違っていた。十九年前にこの別荘で起こった事故の真相を昌が知ってしまったからだ。昌は一家に知られないようにふるまうが…(「時計」より)。ふいに浮かび上がる「死」の気配。そのとき炙り出される人間の姿とは―。直木賞作家が描く、傑作短編集。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。89年「わたしのヌレエフ」で第一回フェミナ賞を受賞しデビュー。2008年『切羽へ』で第一三九回直木賞を受賞。11年『そこへ行くな』で第六回中央公論文芸賞を受賞。16年、『赤へ』で第二九回柴田錬三郎賞を受賞。18年、『その話は今日はやめておきましょう』で第三五回織田作之助賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
72
かれこれ5・6年前に、井上荒野の新刊なので迷うことなくレジへ。相性がいい荒野さんの小説なのに、なんで読まずにいたのか? 読み出してすぐに分かりました。10話の短篇「死」をテーマにした重苦しい内容についていけず、一息では読めません。一話一話それぞれの人物設定、構成に井上荒野流の巧さは認めるものの、モヤモヤが残って一気読みできなかった。とても疲れる小説でした。2025/04/18
Shoji
57
死をモチーフにした短編集です。主人公に直接関係する死であったり、主人公に死を匂わせるだけのものだったり。死を取り巻く人間関係が重苦しく、じめじめとしています。私は人間模様を描いた作品が好きなので、一気読みしました。お話はすっきりとしたものではなく、もやもや感は残りましたが、まあ納得かな。2019/06/18
syaori
53
死をテーマにした短編集。娘や母、店の客、幼馴染などの近い、遠い人物の死がどこかで語られる作品たちから浮かび上がるのは、死が露わにする生や自分でも気付かずにいた複雑な感情、またその死によって生れ、また失われる繋がり。そして残された者はその様々な思いや生れたもの、失われたものを抱え、過ぎてゆく日々を「生きていくしかない」のだということ。作品たちは「案外しのいでいる」、いくであろうその日々を暗示してもいて、甘く苦い思いが募りました。「ひとりの女の死」の「責を分ち合う」表題作、母の死を語る『母のこと』などが好き。2020/06/29
けぴ
46
2016年柴田錬三郎賞受賞した短編集。死をテーマにした10編は、あれっ、ここで終わる? という作品が並ぶ。『時計』『どこかの庭で』『雨』が特に印象的でした。2023/09/24
kaoriction@本読み&感想 復活の途上
24
生きてゆくもの。死んでゆくもの。わたしもあなたも彼だって彼女だって、あの子もあの人も。明日、死んでしまうかもしれないし、10年生き延びるかもしれない。「死」を巡る短篇集。秀逸だ。こんな世の中にあって、つくづく、しばしば、考える、生と死と。知らない誰かが今日死んでも、大切な人が明日死んでも、かなしいかな、私たちの日々は「そうこうして、過ぎていってる」。それが、現実。赤へ向かって。ほんとうのことは、誰も知らない。わからない。今日もどこかで誰かが、死んでゆく。そして、生きてゆく。赤へ、赤へ、と向かって。2020/04/16