内容説明
海の半人半獣「人魚」をめぐる海色の物語。恋愛小説、童話、探偵小説、古典題材、前衛小説、海外の作品など、神秘的で印象深い人魚を主題にした九編を取り上げた。
著者等紹介
長井那智子[ナガイナチコ]
東京都生まれ。青山学院大学卒。スペインに6年、オーストラリアに4年、イギリスに6年在住。ロンドン在住時「英国ニュースダイジェスト」に文学エッセイを連載。フルート、手彫りガラス、絵画等にも造詣が深い。1982年より6年間、王立マドリード音楽院(コンセルバトリオ)で巨匠ラファエル・ロペス・デル・シドに師事。また、イギリスより帰国後、新宿JTBカルチャーセンターで手彫りガラス教室の講師を務める。祖父は精神分析の草分けでフロイトを日本に紹介した心理学者・大槻憲二(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
152
流すのは哀しみの涙、愛のしるし、食欲の表現。やさしさに報いない私を、どうか罰して永遠にゆるさないで。愛で縛って。たとえ食欲でもそれは甘露であります。 怠惰な幸福など捨て去って、一縷の望に航路を進めましょう。美しくおそろしく、かなしみをたたえてひんやりと冷たいあなた。 単なる家畜でしかない私を、飼い慣らして何度でも食べ尽くして。私は脚から派生して、下水溝から大量に再生する。どうせ消耗品なのですから。「海にいるのは、あれは人魚ではないのです。海にいるのは、あれは、浪ばかり。」2019/09/13
★Masako★
72
★★★★人魚祭り本6冊目。人魚をテーマにした作品を幅広いジャンルから集めたアンソロジー。海色の不思議な物語9編♪一日1~2編ずつじっくり味わった。1編目が中原中也の詩「北の海」なのが嬉しい♪小川未明の重く悲しい「赤いろうそくと人魚」、オスカー・ワイルドの「漁師とかれの魂」は宗教色の強い不思議な物語。谷崎潤一郎の「人魚の嘆き」やっぱりいいなあ、この耽美な世界!安部公房の「人魚伝」はSF的な設定で人魚の怖さが伝わってくる異色の作品。水島爾保布氏の装丁も美しい。人魚祭りの〆を飾るのにふさわしい素敵な一冊だった♪2018/05/31
Vakira
55
僕らを含む地球上の生物の生命の源は海だ。そう、僕らの誕生は母の胎内の羊水という海からだ。海から陸に上がり、今では宇宙に居住が出来る。しかし、母の胎内に戻れないのと一緒に海から上がった僕らは海には戻れない。海に吞まれれば死が待っている。僕らにとって海は僕らを生かすための食の宝庫であり、死する脅威の存在になってしまった。そこで人は夢を見る。船を襲うセイレ-ン、尻子玉を奪う河童、王子を助けた人魚など。この本、人魚をテーマにチョイスした8編の短編集。人魚と言えばどこか哀しく、脅威の中で妖艶と官能が同居の予感。2022/05/31
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
49
紙礫シリーズ第三弾の人魚アンソロジー。太宰治や谷崎潤一郎の人魚の話、紙礫シリーズでは初めての海外勢オスカー・ワイルド、本邦初の人魚姫の和訳アンデルセン。人魚といえばの小川未明『赤いろうそくと人魚』。洋の東西を問わず、人魚というものに対するイメージは美しくもどこか悲しかったり、人の心を惑わせ狂わせるものとして描かれている。安部公房の『人魚伝』はSF作品かと思った。一番、印象に強く残った。2016/12/12
空猫
35
【シリーズ紙礫③】人魚が主題だとやはり切なくて、官能的で、悲劇で終わるのは古今東西共通らしい(民話は例外)。一お気に入りは、何だか中国民話にありそうな谷崎潤一郎『人魚の嘆き』、SFぽくて「砂の女」と対のような安部公房の『人魚伝』、狂気の研究が人魚へ、高橋鐵『怪船「人魚号」』。古い作品ばかりなので読みごたえがあった。編者が変わってもこのシリーズ面白いね。2022/10/24