内容説明
深夜の稲村家。女は夫に火を放とうとしている。忍び込みのプロ・真壁修一は侵入した夫婦の寝室で殺意を感じた―。直後に逮捕された真壁は、二年後、刑務所を出所してすぐ、稲村家の秘密を調べ始めた。だが、夫婦は離婚、事件は何も起こっていなかった。思い過ごしだったのか?母に焼き殺された弟の無念を重ね、真壁は女の行方を執拗に追った…。(「消息」より)
著者等紹介
横山秀夫[ヨコヤマヒデオ]
1957年東京生まれ。上毛新聞記者などを経てデビュー。91年『ルパンの消息』で第九回サントリーミステリー大賞佳作、98年「陰の季節」で第五回松本清張賞、2000年に「動機」で第五十三回日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ehirano1
410
これは面白い。主人公は警察官や刑事ではなく「泥棒」。横山さんにしては稀有な作品ではないでしょうか。とはいってもこの泥棒さん、やっていることはほとんど刑事もしくはハードボイルド探偵で(笑)、しかも観察力、洞察力、推察力、全てにおいてスパークラス。泥棒にしておくにはもったいなさすぎ。でもこういうタイプって得てして組織ではうまくやっていけないんですよねぇ・・・かと云って、元泥棒の探偵ってのもなんですが・・・(笑)。2017/01/04
ミカママ
358
ミステリーとさまざまな人情が複雑に絡み合った連作短編集。主人公の真壁がオトコマエすぎる。私としては、どうしても目線が「待つ女」の久子になってしまうわけで。ふたりには幸せになって欲しい(泣)。こういう作品は、ある意味一番横山さんの本領発揮、と言えるのでは。2016/07/22
yoshida
292
住人が寝静まった民家に忍び込み盗みを働く真壁修一は「ノビカベ」と呼ばれる。将来を嘱望されていた修一。双子の弟の啓二が万引きをし、将来を悲観した両親もともに自宅に火を放ち亡くなる。修一は犯罪に手を染めるが、耳の中に啓二の声が聴こえる。奇妙な双子の短編7編。犯罪の隠語の詳しさに、さすが横山秀夫さんの作品と思う。修一と啓二に想われた久子。修一と久子に幸せは訪れるのか。修一のストイックさと硬骨さを感じる。警察側を主人公に描くことが多い横山秀夫さんの作品の中で、犯罪者側が主人公の作品は珍しい。安定感のある作品です。2017/04/21
hit4papa
268
死んだ弟の声が聞こえる侵入盗が主役の連作短編集です。収録されている全7話で長編小説の流れを形成しており、読み応えがあります。泥棒という追われるものを主役に据えているためか、切迫感をともなった重苦しさが印象的です。
しんたろー
231
横山さんには珍しい泥棒が主人公の作品…真壁は住人が寝ている家へ忍び込む腕の良い「ノビ師」で、死んだ弟の魂が耳に宿っている…横山作品の他にはないファンタジー+ハードボイルドで、ミステリとしても一級品の出来。しかも恋人・久子との切ない恋も絡んで来て面白くない訳がない。女性主役の『顔』を読んだ時にも感じたが「なんて幅の広い作家なんだろう」と感服した。連作短編形式の長編なので、読み易いのも有難かった。中でも『使徒』は可哀想な子供が絡んだ話で思わず涙…意外な人情ものに驚いた。ある意味で大人向け寓話なのかも知れない。2018/03/20