出版社内容情報
吉原の遊女屋の娘「ゆう」は旅役者の福ノ助に再会し、一途な思いを募らせていく……。
江戸から明治にかけての吉原の盛衰や、芸能舞台の変遷を織り交ぜ、ひたむきな恋心を描いた第95回(1986年)直木賞受賞作
内容説明
吉原の遊女屋・笹屋の一人娘ゆうは、幼い頃から遊女たちに囲まれてきたが、大切に育てられたせいか吉原の風になじめずにいた。ある日、両国の盛り場で粗末な芝居小屋に迷い込んだゆうに、やさしく接してくれた旅役者。雨の降りしきるなか、行き場のない寂しさを包んでくれたやさしさは、ゆうの幼い心に刻み込まれた。それから五年、再びあの役者と運命的な出会いを果たしたゆうの人生は、大きく変わりはじめる…。幕末の江戸から明治の東京へ、世の慌ただしい変化に翻弄されつつも、信じた道を生き抜こうとする女性の姿を細やかに描く直木賞受賞作。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
昭和4年(1929年)、京城に生まれる。1972年、少年向け時代小説『海と十字架』でデビュー。1973年、「アルカディアの夏」で第二〇回小説現代新人賞を受賞して本格的に活動を開始。推理小説、幻想小説、時代小説、西洋歴史小説の各ジャンルを横断して多彩な作品を数多く発表している。日本推理作家協会賞、直木賞、柴田錬三郎賞、吉川英治文学賞、本格ミステリ大賞、日本ミステリー文学大賞、毎日芸術賞を、それぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイト
67
初めて読んだ皆川さんの直木賞受賞作。江戸時代末期から明治にかけて吉原の浮き沈みや芸能の移り変わりを通して、ゆうが貫き通した一途な恋心。遊女屋で育ったゆうが縛り縛られることに嫌悪し、旅役者の世界に飛び込む。それは惚れた男を通して、自分の居場所はここだと気づいたこと。役者の歩いた後にさくらが咲くように、きつが生きた証に桜の種をまくゆう。成長するゆうの生き様が眩しかった。2024/05/27
アーちゃん
48
1986年初刊本、2024年復刊。第95回直木賞受賞作。皆川博子さんといえばエドワード・ターナー三部作とアンソロジーの短篇しか読んでいなかったので、吉原の廓と歌舞伎、江戸と明治という舞台をどう料理するのだろうと思っていたら、予想以上の面白さだった。遊女屋「笹屋」の娘、ゆうが幼い頃に観た旅役者の福之助。遊郭の闇と歌舞伎芝居の闇。沢村田之助は元より、富田三兄弟が劇場史に出ていた実在の人物という事に驚き。綺麗事だけじゃない時代の変遷とゆうや女郎たちによる女の情念。さくら、遊女屋、江戸歌舞伎。続編に続きます。2024/06/21
ぐうぐう
36
長らく入手困難な状態が続いていた皆川博子の直木賞受賞作『恋紅』が、めでたく復刊された。遊郭の娘として生まれた主人公・ゆうを皆川は、いわゆる貧困からのしあがる物語にするのではなく、遊女屋の愛娘として大切に育てられているという設定にあえてする。あえての意図は、遊郭の世界と役者の世界の対比、その狭間にゆうを置くことにある。遊女屋と同等に、本作は江戸歌舞伎が配置されている。皆川が自作の中で何度も登場させる三代目澤村田之助が本作にも重要なキャラクターとして描かれ(『花闇』の前に書かれていることから、(つづく)2024/05/07
森オサム
33
第95回直木賞受賞作。物語の主軸は、遊女屋の娘ゆうの少女時代から自分の生き方を見つけて旅立つまでの人生を、共に生きる江戸歌舞伎役者の人生と絡み合わせて語る事でした。吉原の世界も役者の世界も、表に見える張りぼての華やかさの裏に壮絶な地獄が隠されている。分かっている事だが、それをずっと読んでいるのは苦しかった。その上、少女だった経験が無い私は、父親の気分で読んで身勝手で残酷な娘にむかついたし(笑)。幕末から明治に変わる頃、実際に戦は行われていなかった東京も激動の時期で有った事は良く分かった。更に波乱の続編へ。2024/11/30
tosca
27
時代は江戸から明治へ、幕末といっても主人公は武士ではなく遊郭の経営者の娘。何不自由なくお嬢さんとと言われ大切に育てられるも、吉原の裏表を子供の頃から見聞きしている「ゆう」は搾取する側の娘という葛藤に苦しむ。遊郭の華やかな部分よりは陰の部分の描写が多く、もう一つは役者の世界も詳しく描かれる。現在の歌舞伎とは異なる庶民の娯楽としての芝居、実在した三代目澤村田之助も出てくる。この人を題材にした「花闇」は本当に面白かったが、皆川先生の澤村田之助への想いをここでも感じる事ができる2024/06/28