内容説明
M県のI湾に浮かぶ沖の島に突如として出現したものはなんであったか?富豪菰田源三郎と瓜二つの小説家人見広介は、源三郎が死んだのを幸いに源三郎になりすまし、菰田家の莫大な財産をもって、おのが空想した夢のパノラマ島をつくりあげた。パノラマ島で展開される妖美な幻覚ともいえるあやしの怪奇譚は、読者を夢幻の世界へとさそいこんでゆく―。広介の正体をみやぶったものはだれ?初期の傑作「パノラマ島奇談」をはじめとする5編を収め、乱歩の鬼才ぶりを十分にうかがわせる傑作集!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
105
悪趣味な。そこは夢想家が無人島に作った理想郷。建築の資金目当てに、瓜二つの死んだ資産家の旧友の生き返りになりすます為、土葬の墓を暴く場面がおぞましい。島は大自然と人工物とが巧みに入り混じり、様々な奇しい仕掛けが。極めつきは裸女が作る乗り物の蓮台、肉の腰掛け、肉塊が波打つ花の湯の池。ラストは感動的とも言える。正体を知られた彼は、打ち上げ花火と共に己の血潮や肉塊の雨を降らせた。自ら花火の筒に入ったときの心境は恐怖ではなく、恍惚感ではなかったか。彼は理想郷の一部となったのだから。いや、まさか殺した妻への愛か。2020/07/09
アナーキー靴下
74
引っ越しで江戸川乱歩文庫が一式出てきたので再読。乱歩は「虫」が私的ナンバーワンだが、次に好きなのはこの「パノラマ島奇談」。細い線を綱渡りするような、究極的なロマンチックさが好き。大槻ケンヂの「春陽綺談」でモチーフとして登場した人見広介、その印象のせいか、受け止め方が少し変わった。昔は棚ぼた的ラッキーで夢を実現した、という単純な筋書きと思っていたのに、人見広介は現実を捨て、夢想の世界にいってしまった、という話だったのかと。後始末まで夢想通りに見え、まるで彼の芸術を完成させるために用意された運命のようだ。2021/05/08
ヨーイチ
36
何度か読んでいる。「パノラマ」って言葉は乱歩読みにとっては「アァあれか」って感じでその有り様が推測出来るのだが、一般名詞化した現代では全然別なイメージを喚起させている事に気がつく。(今の言葉は英語のカタカナ化かもしれない。)調べて見ると、明治半ばに流行った「パノラマ館」が語源らしい。興行として盛況をきわめるものの、新技術の映画に押され衰退してゆく。映画館に転用される事も多かったのではないか。乱歩のパノラマは「夢想から紡ぎ出された別世界の実現」で現代から俯瞰すると部分的に遊園地(テーマパーク) 続く2016/11/26
めしいらず
36
物語そのものよりも、3つの描写の素晴らしさ。序盤。主人公が死んだ友人の墓を暴く場面。その遺体の手触り、腐臭すら伝わってくるようなおぞましさ。中盤。何と言ってもこの小説の要、主人公が夢想し、現実のものとしたユートピアの蠱惑的な美しさ、恐ろしさ。数ある中でも、森の中に忽然と現れる沼とその縁に佇む少女、そして沼に静かに落ちる椿の花弁の場面。それだけなのに強烈な視覚的印象が残る。終盤。奸計が暴かれた主人公が選ぶ凄絶な末期。これは「鮮血の美学」と言えそう。それにしても乱歩の果てしないイマジネーション、スゴ過ぎる。2013/03/15
コージー
35
★★★☆☆『パノラマ島奇談』含む5編の短編集。ある小説家が亡くなった瓜二つの顔の富豪になりすまして、パノラマ島をつくりあげるという話。乱歩独特の世界観へ、じわじわと誘われていく。2021/09/26
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- 和書
- 「いのちの授業」をつくる