内容説明
この世界は、いったい、どこまで続いているのか。私は、その輪郭を、確かめてみたかっただけなのだ。親子三代の人生と記憶、土地の歴史が重ねられる京都を舞台とした「もどろき」、十代の旅の思い出と、北サハリンで出会った人々との交流を描く「イカロスの森」。芥川賞候補にもなった二つの「旅」をめぐる作品と、初の書籍掲載となる小説「犬の耳」、書き下ろしの解説を所収。
著者等紹介
黒川創[クロカワソウ]
1961年京都市生まれ。作家。同志社大学文学部卒業。1999年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年『かもめの日』で読売文学賞。13年刊『国境「完全版」』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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minazuki
15
新刊=新作と思い込んで買ってきたら、2001年・2002年に刊行されたもの。読み始めたら面白い。引き込まれました。/「もどろき」自転車を偏愛する米屋の祖父。祖父の養子で、市役所勤めののち、60歳代で自ら命を絶つ父。小説を書き始めた私。作者自身の一族の物語のようである。もどろきとは、京都の北にある環来神社のことで、故郷に帰り来れるといういわれがある。/「イカロスの森」温泉宿の主人から聞いたサハリンの話。そこから発展して、「死の黒い湖」を求めて北サハリンを旅する。旅ってこういうものだと思わされる物語。2020/12/09
hasegawa noboru
8
「もどろき」老後考え抜いた末、自死を選んだ父、そのあと病死した血縁はない祖父の話。記憶を整理したどる「私」と妹の還来(もどろき)神社への小さな旅。帰って一週間死んだ父からのメールが来ていた。<夢のなかで、懐かしい死者に会うような>孤独。<それでも、ひとは、夜が明けると、たった一人に戻って、目を覚まさなくちゃならない。> 「イカロスの森」樺太引き揚げ者から聞いた『死の黒い湖』を尋ねる北サハリン、オハへの旅。もてなしを受けた現地家族の女主人から贈られた別れの言葉。よく亡き両親から聞かされたという<遠来の客人が2020/12/24
押さない
3
8/10 『もどろき』『イカロスの森』『犬の耳』ストーリー部分と、地域の歴史叙述・哲学的な会話部分の手触りや文体が全く異なる。分離しちぐはぐだったそれらが、時折音を立てて共鳴する箇所が生まれる。『もどろき』における共同体が解体され個となっていた家族が、父親のあの時の会話、残された人の意志による立ち位置が、デッドメールにより明らかになる部分が代表的な例だ。2023/04/27
Momoko Nishikawa
2
家族の物語と、サハリンの森の湖を探す旅、犬の耳というほの折り目をつけていた人の話。 一人で生きているわけではないのに、孤独に生きている人の話。余韻にひたる。読書を終えると旅が終わったような気がする。2021/05/28
ひろ
1
愛も、人生も、旅も、なかなかうまくいかないけど、そもそもそういう心許ないものなのかも、とか思う。2023/03/14