内容説明
草原に暮らす羊飼いの家族たち。その穏やかな生活のなかにある、秘められた葛藤と孤独を描く表題作「風船」のほか、仏教的世界観と近代的価値観が混じり合う現実を生きるチベットの人々をユーモラスに、幻想的に、時にリアリスティックに描いた短編6作品を掲載。ほか、自伝的エッセイと、訳者解説も所収。映画監督としても注目されるペマ・ツェテンの小説家としての魅力、そしてチベット文学の魅力を伝える。
著者等紹介
ペマツェテン[ペマツェテン] [Pema,Tseden]
1969年、中国青海省海南チベット族自治州貴徳県生まれ。チベット語と中国語の二言語で創作を行う小説家であり、またチベット語母語映画の創始者とされ、数々の国際映画祭で受賞歴のある映画監督でもある。小説もフランスを始め世界各国で翻訳されている
大川謙作[オオカワケンサク]
日本大学文理学部中国語中国文化学科教授。専門は社会人類学、チベット現代史。ペマ・ツェテンの翻訳を多数手がけている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
122
チベット文学を読むのは初めて。と言っても親しみやすい文章でするりと現代チベット社会の風習が醸し出す魅力に取り込まれ、楽しみながら読むことができた。特に羊が出てくる作品がお気に入り。著者は映画監督でもあるそうだ。それもあってか映像的に印象に残る場面も多い。表題作の風船も絵になるが、実はあの風船は…。ふふっ、真面目な題材を描いているが合わせて巧みなユーモアも忘れない。出てくる人物はみな裏表が無くて明け透けな会話がまたいい感じ。輪廻など仏教の世界観が生活に浸透している様子も興味深かった。映画の方も観てみたい。2021/06/28
taku
18
チベットの有り様と浮遊感。表題作はチベット人作者ならではの小説。伝統や信仰は大事でも、それが軋轢と苦しみを生じさせることがある。現代思想も受け入れていかなければならないことを巧みに描くが、私は今一つ波長があわなかった。羊の魂を救済しようとする「轢き殺された羊」、外の世界に向かい得ては失う女性の男遍歴「九番目の男」、結局何を探していたのかわからなくなる妙味「よそ者」が好みだっだが、どの作品も噛めばより深い味わいになる。この人の映画は観てみたい。2022/08/25
じょうこ
12
チベット文学です。近頃、公開された映画「羊飼いと風船」がメチャ良かったので(空気感、色、音、構図、脚本、役者‥私にとって7つ星作品)、監督ペマ・ツェテンによる原作を読もう、これが入り口でした。6つの短編集。映画とは違い、どの作品も粗い目の画用紙に鉛筆線画で描かれたようなシンプルでプリミティブな小説でした。翻訳もとてもいいです。使われている日本語がへえっと思える(チベット語知らないけど)。特に好きな作品は「黄昏のパルコル」。どの作品も現代社会のゴジャゴジャ・アレヤコレヤが無く、そう、夜と昼だけがあるよう‥。2021/02/26
じょうこ
9
チベット映画を4本立て続けに観て、その余韻に浸りたく再読。観た映画の原作が本書内に収録されているわけではないのだが、前回読んだ時よりもその世界観を行間まで味わえた気がする。男や女に入り組んだ事情がないのがよい。ビルも飛行機も電車もないのがよい。情報もない。羊と道と月夜はある。といって、昔話でも寓話でも神話でもなく、優しい眼で人間が描かれた「ザ・小説」と感じる。こういうタイプの小説をもっと読みたい。日本の小説でないかな?2021/04/14
まこ
8
表題作。風船や羊が、羊飼いの生活とその中での女性の立場を表す比喩として役割がある。生まれ変わりを絶対視し、羊飼いと羊は絶対的。その皺寄せが女性にくる。他の話でも羊が惹かれたのは何の比喩か、女性が同じ名前とかユーモアあるけど一個人として見られていない。チベット仏教って、中国と西洋が合わさった独特の感じ。2024/02/08