内容説明
日本橋の油問屋山形屋半兵衛のひとり娘、18歳のおことには意中の人があった。その恋しい人の名は三十三間堂裏のうなぎ長屋に住む、一文字左近と名のる剣客浪人であった。八幡さまにお参りにいくと称してうなぎ長屋に左近を訪ね、そこに留守の左近に代わっていた粋な小唄の師匠小竜の存在に衝撃をうけたおこんは、門前町の料亭『亀川』で飲めもせぬ酒を呻って酔いつぶれてしまった。そして、女将の知らせで迎えにきた山形屋の梅吉と名のる偽番頭によって、いずこへともなく連れ去られてしまったのだった。山形屋半兵衛は一代で身上を築き上げただけに、恨みをいだく者も少なくはなかった。20年前、その奸策に陥って滅んだ者の1人である肥前屋には行方知れずの息子があった。