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出版社内容情報
なぜ戦争を阻止できなかったか。
真珠湾攻撃から60年、戦争は始まってからでは遅い。
戦時下の新聞の生態、新聞の戦争責任を検証する!
過去に学ばないものによりよき未来は開かない。なぜ、国民やジャーナリスト(とりわけ新聞人)の間に戦争への抑止力が生まれなかったのか、という立場から、15年戦争のエポックとなった各事件と新聞報道の内容や姿勢を検証し、巨大な国家暴力が新聞を呑み込んでゆくメカニズムを実証的に描いた労作。
戦時下言論史の貴重な資料。
まえがき
人生にはさまざまな出会いがある。一九七四(昭和四十九)年夏、冤罪事件との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士(一八九六―一九七五)に会ったのが、この本が生まれるキッカケとなった。勤務地の呉から上京し、中央線・市ケ谷駅からほんの目と鼻の先にあった自宅を訪ねた。壁全体をツタがおおい、今にもくずれそうなオンボロ二階建て。こんなボロ家で、と思わず胸が熱くなった。
冤罪事件の八海事件を取材するための訪問であった。二階に上がると書斎があり、その入口には空襲警報発令中という看板が掲げてあった。部屋に入ると、所狭しと積み重ねられた本や資料の間に、天井からクサリが二本つるされていた。
「これ何と思う。こうやるんだよ」といきなりクサリにぶら下がり、グルりと一回転したのには度肝を抜かれた。正木氏はこの時七十八歳である。こちらはヒヤヒヤしているのに、「体を鍛えるんだ」と意気軒昂であった。若々しく、顔にはツヤがあり、血色もよく、情熱がみなぎっていた。
八海事件の取材が一段落した時、奥に引っこんだ先生はしばらくして「これを記念にあげるよ」と一枚のプリントを私にくれた。茶色っぽく変色したガリ版ずりの「近きより」であった。
正木氏が戦時下に独力で個人誌「近きより」を刊行し、体を張って言論抵抗したことは知っていたが、まさか、そんな貴重なものが残っているとは思ってもみなかった。
よくみると、敗戦の日、昭和二十年八月十五日の手書きのガリ版ずりであった。これを読んだ時の感動は今も忘れられない。
敗戦日本
日本は降伏した
神の審判は厳に下ったのである
敗北して尚お生存を続けているのは
宏大無辺なる神の恩寵である
神が日本民族絶滅一歩手前に
一度反省の機会を与えたのである
もしこの恩寵を理解し得なかったならば
直ちに 恐るべき最終の審判!
民族絶滅へと移行するであろう
罪悪の国 日本!
遠き野蛮未開の時代は知らず
中世以後において 日本ほど
愚昧にしてかつ悪徳の国があったろうか
(「近きより」昭和二十年九月号)
新聞社に入って以来、常に私の心にあった問題は「なぜ、国民やジャーナリズムの間に戦争への抑止力が生まれなかったか」ということである。正木弁護士に会い、「近きより」を直接、手にし、目で見たことにより、これが一挙に具体的なテーマとなった。
正木弁護士の戦時中の日本人についての持論は「日本は今だにルネッサンスを迎えていない」「日本人家畜論」である。言葉は激烈だが、昭和天皇が重体になって以来亡くなるまでの国民や各界、ジャーナリズムの反応をみると、この言葉は今も重みをもって迫ってくる。
「過去に目を閉じる者は現在に対しても盲目となる。非人間性を想い起こそうとしない者は再び新たなる伝染の危険に感染しやすくなる。……私たち年長者が若い人たちに与えるべきは夢の実現ではなく、誠実さです。歴史の真実を直視できるよう助力しなければならない」――これは一九八五年五月八日、西ドイツのワイツゼッカー大統領が同連邦議会で敗戦四十周年にあたって演説した言葉である。
ナチスのユダヤ人虐殺についても「罪がある人もない人もみんな過去を引き受けなければならない。五月八日は出来事について誠実かつ純粋に思案する想起の日」と訴え、国民に大きな感動を与えた。
苦い過去を直視し、ナチスの責任を徹底して追及する西ドイツと、過去を水に流し忘却の彼方においやるわが国とは天地の差がある。国際社会での中の日本を考える時、この習性が隣国からいつまでも警戒をもって見られることは言うまでもない。
特に問題なのは、ジャーナリズムもこの忘却病に深く冒されていないか、ということである。日々、現代史を記録している新聞は過去を不断に検証することなくして、現在をよりよく把握することはできない。
本書の内容は十五年戦争のエポックとなった各事件を新聞はどう報道したか――をできるだけ客観的に当時の資料や証言をもとに再現したものである。
過去に学ばないものによりよき未来は開かない――そんな思いを込めて本書を十年以上もかけてコツコツ書いたが意余って力足らずの感が深い。遠慮のない批判をいただければ幸いである。
内容説明
本書はの内容は十五年戦争のエポックとなった各事件を新聞はどう報道したか―をできるだけ客観的に当時の資料や証言をもとに再現したものである。
目次
なぜ戦争を阻止できなかったか
自らを罪するの弁
言論弾圧法の実態
金解禁を支持した社説
吹き荒れる言論への暴力
スパイ政治との対決
満州事変前夜
満州事変勃発
満州事変への批判的言論
暴弾三勇士の真実
国際連盟脱退
5・15事件
菊竹六鼓のたたかい
桐生悠々と『他山の石』の抵抗
京大・滝川事件
ゴー・ストップ事件
言論弾圧と自己規制
命がけの報道
「近畿防空演習」社説訂正事件
陸軍パンフレット事件
美濃部達吉と天皇機関説