内容説明
ある夜、ラドルファス以下が静かに祈りを捧げていた教会に、一人の若者を追って群衆がなだれ込んだ。金細工人の家で結婚披露宴の余興の芸をしていた放浪の芸人が、金銀を奪いその家の主人を殺したというのだ。若者は庇護権を盾に修道院という聖域にかくまわれた。やがてその隣家の男が殺される。金細工人の家になにかがある。若者の無罪を信じるカドフェルが乗り出す出番がきた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
geshi
27
導入は勢いがあるが、それ以降は若者のピンチ、ロマンスの行方、カドフェルの人格者ムーブといつもの展開。リリウィンが疑われているのに浅慮な行動をとるから「助けなくていいのでは?」とちょっと思っちゃう。正統派なフーダニットが仕組まれているが、何より自分の権利に汲々とする男たちの浅はかさと対比して賢く立ち回る女たちのしたたかさが印象的。家庭の中で自らの立場を勝ち取った若嫁、そして自由を求め束縛から逃れようとした犯人、二人の描写が心に残りラストの悲しみが切なすぎる。2023/02/03
鐵太郎
15
1140年のイースターの少し後。聖域であるはずの修道院の礼拝堂に逃げ込んできた若い男がいます。追っ手は彼を盗賊だと言いますが、聖域に逃げ込んだものは守られると宣言する修道院長ラドルファス。無実を訴えるこの男は、はたして何者なのか。無実なのか。──職人マスターの家で、自分の家族を持つ幸せを捨てて家のために尽くしたスザンナ。その地位を奪う若い嫁。錠前屋と、金細工職人の老祖母を殺したのは誰か。悲しい結末です。 2005/03/19
madhatter
2
再読。推理小説としても優れた作品で、手掛かりの仕込み方も巧みなら、それをうまく使って、ある程度論理的に犯人に至ることもできる。ただ、それ以上に、この人が犯人じゃなかったら良かったのにと再読にして思っていた。確かにあの最期は自身の責任故同情はできない。むしろ、ある家族内のドラマに於ける、犯人の存在や扱われ方が、私には初読の際から切なすぎた。他作のどんな犯人より「逃がしてやってくれよォォヒュゥゥゥ(ベリンガー)!」と感じる…故に最後のある人物の浅ましさが…何かもう、テメエが死ねっつの。2012/06/20
くぅ~ねる
1
物語の初め、静かな祈祷の時間が突然騒然とし慌てふためく修道士達と、杖とランプを手に毅然とした態度で村人達に対峙するラドルファス院長の様子が鶏小屋の雛と親鳥のようでちょっと面白かった。しかし、読み進めていくと「欲」にまみれた人間達の浅ましさが顕著で不快に思う事もしばしば。「自分さえ良ければ」の人々が目立つ中、大道芸人と召使いの純粋な愛が物語の救いだったように思える。今作では「音楽」に通じる修道士も登場し、彼や「医」に通じるカドフェルの他、何に精通した修道士がいるのか知りたいし、登場の機会を期待したい。2025/03/10
(ま)
1
庇護の中へ飛び込んできた雀、ケチな家族の悲劇2020/09/07