出版社内容情報
本書は筆者にとって三冊目の「編集長日誌」になる。「編集後記」が本になるという、編集者冥利(みょうり)に尽きる恩恵にあずかれるのも、筆者がいままで述べてきたことに共感してくれる『噂の眞相』の読者が存在するからだろう。ありがたいことである。感謝ついでにいえば、編集者と読者との間のコミュニケーションが断絶している雑誌は先がないといっていいかもしれない。ただ一方的に政府広報や企業広報のニュースリリースをタレ流しにするような無機質な関係性においては何も生まれてこないからだ。メディアはあくまでも送り手と受け手の相互関係が成立してこそ正常に機能しうるのではないだろうか。そして、少なくとも『噂の眞相』のようなミニコミ意識につらぬかれた雑誌にはそれが可能であり、持ち味になりうるともいえる。もちろん相互関係が成立しえなくなった時、その雑誌の命運が尽きるのはいうまでもない。……(はじめに)より
……そんな中、何かと問題の多い政治家や官僚にとっては不倶戴天の敵でもあった『フォーカス』が20年の歴史に幕を閉じた。部数が落ちて採算割れになったことが直接の原因だが、こうした政治家や官僚にとっては個人情報保護法という言論弾圧のウルトラCを行使するまでもなく、規制対象の中心だったはずの『フォーカス』が自ら言論の拠点を失ってしまった。『噂の眞相』は『フォーカス』休刊号に1ページの広告を出稿し、同誌の雑誌ジャーナリズム界における意義を評価しつつ、「まだ『噂の眞相』がある」とのメッセージ広告を掲載した。かつて『朝日ジャーナル』の休刊号で1ページ広告を出してメッセージを発信した時と同じ『噂眞』流の試みである。
今、雑誌メディア総体が権力スキャンダルや権力に対するチェック機能を有するがゆえに名誉毀損裁判における1000万円、500万円といった高額な損害賠償判決を受けたり、個人情報保護法といった稀代の悪法による法的しめつけを受けようとしている。その理由もよく考えてみればわかることだが、政治家や官僚のスキャンダルを率先して報じているのは新聞でもテレビでもなくいまや雑誌ジャーナリズムだけなのである。権力者たちにとってうるさくつきまとう雑誌だけは「報道機関」という範疇に入れたくないというホンネは容易に理解できるが、それでは自由な言論は死滅し、ファシズムや言論統制の時代の到来でしかない。『噂の眞相』はこうした言論の危機状況に抗して、先に書いた「和久・西川」刑事裁判が決着がつくまで、少なくとも後2年間は『フォーカス』の心意気を受け継ぎつつスキャンダル雑誌としての最後の仕事をやり遂げたいと思っている。それこそが、国民の知る権利に答えるジャーナリズムの社会的責任であり機能であることは疑いようもないとの信念を持っているからだ。いささかアジテーション的な原稿になってしまったが、これも昨今の言論状況に対する危機意識の反映と理解して欲しい。(文庫化にあたって)
内容説明
『噂の真相』1989年4月号から1994年3月号に掲載された編集長日誌を収録。最後に、著者と佐高信氏との対談「辛口文化人批判」を併録。
著者等紹介
岡留安則[オカドメヤスノリ]
1947年鹿児島県生まれ。法政大学社会学部、同法学部卒業。1979年『噂の真相』を創刊、編集長に就く
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