現代教養文庫<br> 源氏物語入門 (新版)

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現代教養文庫
源氏物語入門 (新版)

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  • サイズ 文庫判/ページ数 250p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784390116398
  • NDC分類 913.36
  • Cコード C0193

出版社内容情報

奥深い解説
五十四帖展望
千年を経た「物語」の中に現代を映す人間の姿がある。
雄大な、しかも美しい、人間曼陀羅としての長編小説「源氏物語」。
世界文学屈指の名作をよりたのしく読むためのガイド。

『源氏物語』は日本が誇る《世界の文学的遺産》
著者は生涯にわたりすべての精魂を源氏物語研究に傾注、その多くの学門的業績は“源氏学の泰斗"というにふさわしい存在。本書は、得がたい入門書となるだろう。
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 書 名

 源氏物語の本来の呼び方は、「源氏の物語」と「の」の字を入れて呼んだものでありましょう。同じ著者の作である『紫式部日記』にもやはり「の」を入れて呼んでおり、その他『更級(さらしな)日記』とか、前田家所蔵の『水鏡(みずかがみ)』にも同様にしるされております。「源氏の物語」とは、いうまでもなく、他の物語類の書名の例と同じように、物語の主人公である光源氏の略称からとられているものであります。もっとも源氏という字義をせんさくし、「源」は水の源てあって、「岷江初濫觴入楚乃無底」というように、この物語は、一見女がはかなく書いたもののようであるが、実は、その心は浅くないことをあらわすのだ、というようなことが、中世以後の註釈書には、よく言われました。中院通勝(なかのいんみちかつ)が書いた有名な註釈書である『岷江入楚(みんごうにっそ)』も、これを名としたものであります。しかし、もちろん、こういうことは儒学者流のこじつけでありましょう。

 ところが、大原三千院に『拾珠抄(しゅうじゅしょう)』という本があって、それに安居院澄憲(あんごいんちょうけん)(一二〇三歿)という坊さんの書いた源氏供養の願文がおさめられております。いわゆる「源氏一品経(げんじいっぽんきょう)」ですが、その中に、これは「光源氏の物語」と呼ばれております。『河海抄(かかいしょう)』という古い註釈書には、源氏物語という名称の物語が世にたくさんあるので、他の源氏物語と区別するために、紫式部の作ったものを、とくに「光源氏の物語」と言ったのだというような、奇怪な一説をあげていますが、これはむろん信ずるにたりないことです。しかし、この一説はともあれ、「光源氏の物語」という名称が行われたことはたしかであります。たとえば、『東鑑(あずまかがみ)』の建長(けんちょう)六年(一二五四)十二月十八日の条にもその名称が見え、源氏学者である源光行(みなもとのみつゆき)の一派にも、そんな風に呼ばれていたようです。この名称も、さきの「源氏の物語」と同様に、主人公の光源氏によったものであることは、いうまでもありません。

 そのほか、「紫の物語」、「紫のゆかりの物語」という呼び方がありました。それは、『更級(さらしな)日記』をはじめ、古い註釈書類にも見え、江戸時代の国学者である山岡浚明(やまおかまつあけ)という人などは、むしろこれをとりあげて、源氏物語は紫の上のことをもっぱら書いたものであるから、「紫の物語」と呼ぶ方が古く、後に「源氏の物語」と呼ばれるようになったのだと言っているくらいです。こういうことは、他の物語でもあることで、たとえば『竹取(たけとり)物語』は、「竹取の翁(おきな)の物語」と呼ばれるとともに「かぐや姫の物語」とも呼ばれました。これは要するに、その物語を主人公側から呼ぶか、女主人公側から呼ぶかのちがいに過ぎません。

 ただし、ここで注意しなければならないことは、「光源氏の物語」にしろ、「紫の物語」にしろ、これらはすべて、作者みずからが命名し、決定した書名とは考えられません。もしも作者みずからが命名したものとするならば、このようにいくつもの書名が存在するはずはないでしょうし、また作者の命名以外に異名が生ずることもなかろうと思われます。これらの名称は、おそらく誰でもが容易に呼びうる一般の名称だったものと考えられます。このようなことは、源氏物語に限らず、平安時代の物語一般に共通した現象であります。 源氏物語のことを、「源語」、「紫文」、「紫史」などと呼ぶ例がありますが、これは明らかに漢文の形式にならったもので、江戸時代以後に行われたもののようです。
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 研究史及び研究書目

……近代になってからも、源氏物語は日本文学研究の輝かしい座標をなしました。すぐれた歌人や作家は、だれでも源氏物語を愛読して人間教養の源泉としたのです。樋口一葉の文学を高くしたものは、元禄(げんろく)文学や「文学界」ばかりではありません。より以上に、源氏物語鑑賞できたえた、深くこまやかな情緒によるものでしょう。

 なかでも与謝野晶子の業績は、多くの専門家たちに伍しても、めったにひけをとらぬものでした。源氏物語といえば、わずかに『湖月抄』ぐらいしか見られなかった時代に、一少女の身で全篇を読みとおしただけでも容易なわざではありません。しかも女史は、のちにみずからその現代語訳にあたりました。そして長い年月をかけてついに完成したのです。晶子は明星派(みょうじょうは)の中心をなした一代の大歌人であることにまちがいはないが、彼女のそうした旺盛な意欲、ロマンティックな熱情、それはみな、源氏物語研究への熱烈な愛情と、表裏一体をなしていたのです。

 現代語訳といえば、晶子のほかにも、五十嵐力(いがらしちから)博士のもの、窪田(くぼた)空穂(うつぼ)氏のもの、それから谷崎潤一郎氏のものなどいろいろあります。舟橋聖一(ふなばしせいいち)氏もこれらとはちがった様式で現代化のためにつとめています。いずれも特色をそなえたすぐれたもので、誰でもができるというものではありません。たった一つの文章を訳すにしても、現代語のもつ一つの助詞、一つの助動詞のつかいかたで、ニュアンスがちがってくるのです。現代語訳は結局は訳者の創作的行為です。その人がいかに源氏を享受(きょうじゅ)したか、それを正直に語るものです。

 大体このようにして、源氏物語は、一〇〇〇年という長い間、あらゆる階級、あらゆる種類の人々に読まれてきました。一口に読むといっても、その読み方には、実に多くの種類や階級のあることが分かります。そのなかにあるものは、真に源氏物語を正しく理解して、その本質にせまる努力をしているが、なかには源氏物語のために、何の貢献するところもない、むしろマイナスにしかならないものもあります。あるいはこの方が案外多いかもしれません。先にも述べましたが、仏教の宣伝のためにつかったり、好色本(こうしょくぼん)として珍重したりする、このようなことは、源氏物語をけがすものとして憤慨(ふんがい)されても仕方ありますまい。

 しかし、よく考えてみれば、源氏物語は、果たしてそれくらいのことでけがされるものでしょうか。柳亭種彦(りゅうていたねひこ)が『田舎源氏』を書いて、源氏物語の世界をとんでもない方向にもっていったといっても、そのために源氏物語に、きずがついたというわけのものではありません。きずをうけたのは、『田舎源氏』の作者白身で、種彦という男の文芸鑑賞は、こんな卑俗な馬鹿げたものかと嘲笑(ちょうしょう)されるだけの話です。

 その反対に、どんなすぐれた源氏学者があって、たとえば定家や親行などの人が、身をもって源氏物語の本質にぶつかり、生涯をその研究にかけたとしても、源氏物語の価値が、そのために特別あがったというわけにはなりません。価値があがったのは、そういう業績を残した定家や親行白身です。源氏物語は、一千年に近い時の経過の中に生きて、ほとんど無数といってよいほどの読者をもち、その一人一人によって、自由に気ままに扱われてきたわけですが、しかし源氏物語そのものは、依然としてただ一つ、あらゆる毀誉褒貶(きよほうへん) をこえ、すべての享受をこえて、毅然(きぜん)として天の一角にそびえている、不変の巨峰だといっていいのです。

 このような偉大な作品にむかって、われわれがこいねがうことは、ただいかにしたら、おのれをむなしくして、この名作の不朽(ふきゅう)のいのちにふれることができるか、ということだけです。

 最後に、なおこの物語について学ぼうとされる方たちの御参考までに、研究書目をあげることにします。もっとも源氏物語の研究書目は写本にしろ、刊本にしろ、余りにも多く、一つ一つあげることは到底不可能ですし、また、今は、その必要もないでしょうから、主要なもののみを適宜(てきぎ)にあげておくことにしましょう。……

内容説明

『源氏物語』が書かれたのは十一世紀、今から約一千年前。多くの人の批判に耐え、時代を超え国を越え、かくも長きにわたって愛読されてきた『源氏物語』の魅力と、作者紫式部の人物像および王朝時代の時代相について多面的かつ知的好奇心を刺激しつつ分かりやすく解説。

目次

書名
巻数と巻名
作者とその像
成立の時期
物語の梗概
構想と主題
女主人公点描
モデル論
後世文学への影響
諸本とその系統
鑑賞
研究史および研究書目
源氏物語略年表

著者等紹介

池田亀鑑[イケダキカン]
1896年鳥取県生まれ。1926年東大国文学科卒業。1956年東大文学部教授在職中、死去。著書『源氏物語大成』(8巻)のほか『宮延女流日記文学』『研究枕草子』『源氏物語系統論序説』ほか多数。主要業績は『池田亀鑑選集』(4巻)に編成(69年)されている
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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あまん

4
多くの人物が登場する本作の理解に大変、役立った。『源氏物語』の文章の流麗さや、事件の詳らかな経緯の理解はまだまだ浅薄だが、理解を続けていきたい。そう思わせてくれる読み物だった。2019/07/08

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