内容説明
本書は1967年、当時ニューウェーブSFの熱さめやらぬイギリスにおいて、その牙城たるニュー・ワールズ誌に連載された。以後、20年の時間の経過の中で、ニューウェーブSFは様々な毀誉褒貶のもとに置かれ、それぞれに自己解体を余儀なくされていった。しかし、このムーブメントの正当な評価は、所詮、その中から産みだされた幾多の傑作を精読することによってしかなしえない。本書は、確かに前衛的な文学手法をSFに導入した、前衛的なSFである(SFの手法を「普通小説」に採り入れた前衛的な文学作品と遜色はない)。同時に、P・K・ディックのようなしたたかな先輩作家に深い衝撃を与えるリアリティも内包していた。その意味で、60年代を代表する傑作SFの一つであり、SFの可能性を極限まで追求した壮大な企図である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
124
強制的囲い込み。思想の強要。盲従する人間を作り出すには、それを容易にする世界とはどういったものか。それがなされる世界の恐怖がこの時代に蔓延していたからこそ、これはSFというより時代を表す作品であり、ある時代を超えて生き続けるのは難しいように思えた。二ヶ月ほどかけてようやく読了。SFファンタジー世界へ踏み出せず、ありえないだろうという拒絶感は、恋愛小説を読んだ時の展開にも覚えるもので、素直に身も気持ちも委ねられない自分を感じた。今はない SFのサンリオ文庫が果たした役割の大きさには敬意を表する。2018/03/10
まふ
115
全体は良心的兵役拒否の代償として監獄の中で行われる知性変動実験の被験者となった詩人の強制的に書かされた手記となっているが、文章が脈絡なく飛び、言葉遊びも多く、面妖な述語、古典教養の断片が舞い、膨大な訳注を引きつつ読むというわけでもなかったため、一読だけでどれだけ理解できたかは甚だ心もとない苦戦の読書であった。本書はSFとされているが、普通の物語という感想を持ち、SF感を感じられなかった。時間があれば再度挑戦したい。G667/1000。2024/12/16
扉のこちら側
70
初読。2015年1085冊め。【63/G1000】巻末5分の1程が訳注だと気づかずに最後まで読了。難解な用語や表現、おびただしい程にちりばめられた引用に頭の中を常に疑問符が飛び交い、ひたすら検索しながら読み進めた。兵役拒否の代償として監獄の中で行われる知性亢進実験の被験者となった詩人の手記という体裁の本作は、concentration camp(強制収容所)をひっくり返したタイトルからもナチスの強制収容所を連想させられる。訳者によるとconcentrationには (続2015/10/28
sin
57
仰々しく大袈裟な記述の連なり⋯これぞニューウェーブ!或は文学を羨望するSF者の妄言か?米国に蔓延する能天気なサイエンス・フィクションへのアンチテーゼか?人類は超越者の実在と云う呪いに侵されている。神と科学の両立と云う混乱が人々の認識を狂わせているかのようで、古典やら薬物による妄想戯言に読者の虚栄心を煽り真理を仄めかす。否、これまでは伏線⋯最後はSF的オチに纏め上げられる。◆英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1000冊を読破しよう!http://bookmeter.com/c/3348782025/04/16
NAO
56
戦争捕虜として強制収容所に入れられ、日記を書くことを強要されている主人公は、自分の状況を、ドストエフスキーの『死の家の記録』だと考えている。また、詩人である主人公が「ここは地獄だ」ともらすことから、これはダンテの『神曲』の地獄めぐりを暗示しているようでもある。また、さらに、閉じ込められた空間で疾病にかかった主人公の精神世界を描くという点では、トーマス・マンの『魔の山』に類似しているともいえる。こういったさまざまな文学作品を思い浮かばせる設定ではあるうえに、西洋文学を基盤にした言葉遊びが多く(そういう⇒2023/02/18