内容説明
1959年10月、カリフォルニアはベルモントにあるベヴァトロンの陽子ビーム偏向装置が初めて作動しようとしていた。この画期的な装置を見ようと、その時、観察台にはガイドと見学者を合わせて8人の人間がいた。その一人,ミサイル調査研究所に勤める電子工学の専門家ハミルトンは、妻マーシャと共に、苦にがしい気分で見学していた。直前に、マーシャの素行が因で、研究室を休職させられたのだ。ところが、作動しだしたビーム偏向装置はたちまちトラブルを起こし、60億ヴォルトのビームは天井にむかって放射され、観察台を焼きつくし、8人の人間を60フィート下に叩き落とした。奇蹟的に軽傷で終わった見学者たちが目覚めたとき、そこは「バーブ教」の支配する呪術的な世界だった…。ディック初期の最大傑作、待望の完全新訳版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
OHta
5
かなり面白かった。PKDにしては珍しくハッピーエンド(?)でしたが、そこまで辿り着くまでは例のごとく悪意の連続。しかも善意から来る悪意。いわゆる〈大きなお世話〉が怒涛の勢いで押し寄せてきます。とある事故に巻き込まれた男女数名がその中のひとりの精神世界に入り込んでしまってさあ大変。神はそれぞれの心におわしますのでお前の宗教を俺に押し付けるな、とPKDが言っている気がする。しかし贅沢な一冊です。次は誰の世界に入り込むのか……その世界はどうなっているのか……現実と虚構を綱渡るPKDの面目躍如的傑作。2017/07/07
スターライト
3
うーむ、人の内面を表わすのに、こんな方法があったのか。ストーリーは画期的な陽子ビーム偏向装置の事故の描写に始まり、妻とともにその事故にまきこまれた主人公のハミルトンは、自分が勤めるミサイルを開発している研究所から、妻が共産主義者(もしくはそのシンパ)であることを理由に、休職させられていた。事故後、病院で意識を回復したハミルトンだったが、それは悪夢の始まりだった…。SFの某アイデアを、ディックが処理したらこんなにも不快な作品になってしまうのか。最後に出てきたハサミムシが意味するものを考えると、悪夢は続くのか2011/05/22
ナナシ少佐
2
主人公夫婦含め計8人の人間が奇遇にも居合わせたある装置の観察台において、不運にも装置トラブルが起きる。幸い皆軽傷ではあったが意識を失うこと少し、それぞれが運び込まれた病院で目を覚ますことになる…そこが現実と似て異なる理不尽な世界であると気付かぬままに。些細な違和感を発端に、自分の今まで生きていた世界でないことに気付く主人公たちは、独特な世界のルールに縛られながら足掻く。疑いあるいは信じながらも徐々に混沌に突き進む世界の果て。それぞれが最善と描くものが、他者にとってどう映るのか視覚的に描かれた作品であった。2020/12/29
青沼ガラシャ
1
ディックはどのページを読んでも面白い。作品を通して眺めると設定が矛盾していたり話が破綻していたりするが、打ち上げ続けられる花火の如くアイデアがスパークし続けるので楽しく読めてしまう。虚空の眼はそんなディック作品の中でも破綻も無く、前向きなパワーに溢れていて特にキャッチーだと思う。2022/09/20
c3po2006
0
★★★2014/03/05