内容説明
第３次世界大戦を経た２１世紀なかばの地球は、完全に二極化されていた。ワルシャワを中心とする共産主義体制と、米欧合衆国（ＵＳＥＡ）とに―。ＵＳＥＡでは４年に一度国民投票が行なわれ、新しい大統領デル・アルテが選ばれるが、実権は若く美しいレディ、ニコル・チボドウが握っていた。国民は特権階級を意味するＧｅと平民を意味するＢｅに選別され、レディを満足させる芸の持主のみが社会的昇進を約束されていた。そのレディが突如として、精神分析医を抹殺するマクファーソン法を施行し、フォン・レシンガーの発明した時間移動機を用いて、１９４４年のドイツからゲシュタポの創設者ヘルマン・ゲーリングを移送しようとする……。本書は、Ｐ・Ｋ・ディック一流のガジェットやアイデアが複雑に入り組み、メイン・ストーリーすら容易に見さだめにくいが、間違いなくディックＳＦの原点となる傑作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ニミッツクラス
27
86年（昭和61年）の540円のサンリオ初版。17年に早川で新訳復刊。カバーの女性はファーストレディのニコル。その他の人物は…誰も彼も“ヨーロッパ・アメリカ合衆国”と言う巨大なディック的闇鍋の具の一つでしかない。一気読みしないと登場人物が覚えられない事に加えて、複雑なプロットを畳み切れない群像劇はすんなりとは腑に落ちない。時代設定は「あなたを合成します」より後年で、“フラウエンツィンマー”家は子孫なのか？ 2050年頃の話で80年に核戦争、90年代に西独が合衆国の州になる。SFガジェット満載。★★★★☆☆2022/01/20
ぶうたん
7
ディック作品らしく小道具や設定としてのガジェットは頻出するものの、なぜかSFらしさはあまり感じられない。ディックは得意のガジェットを繰り出しながらもメインストリート小説を書こうとしたのではないか、そんな気がしないでもない。最初は無関係な登場人物と舞台が並行的に語られるので馴染みにくいものの、中盤くらいから相互の関係性が生まれ、舞台にも馴染んでくるので面白くなってくる。最後にパタパタとクライマックスが描かれるものの、全体的には骨太のストーリーはなくその辺がメインストリート小説の印象を強くしているように思う。2022/04/26
スターライト
5
ディックお得意の本物と偽物、精神疾患と強権的な法律、一部の特権階級と抑圧され管理される大多数の人民…。そこへ時間移行機と自由主義と共産主義の二大体制による世界分割などさまざまなガジェットがつみこまれすぎて、消化不良になっている点は否めない。チュパーと呼ばれるネアンデルタール人たちがストーリーのそこここで見え隠れし、最後に象徴的な幕切れは印象的。2011/05/16
ナカユ〜、
3
話を追うのが難しいけれども、ディックらしさがプンプン匂う(笑)。2011/01/10
lekanto
2
彼の脳内に広がる世界への扉を、一ミリだけ開いている、といった印象。魅力的なモチーフに心奪われ、どんなに見たいと願っても全貌は見えない。でも、そんなところにもまた惹かれる私は、PKDファンなのである。2011/05/21
