感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ニミッツクラス
25
85年(昭和60年)の600円のサンリオ初版。後発02年に創元も新訳改題「あなたをつくります」を刊行。米本国72年で、64年に「シミュラクラ」を上梓。邦題(=原題)と前半部分のシミュラクラ製造と売込みから、勝手にディック節炸裂の改造人間の精神ドラマを想定していたが…いやいや、霧消した後半の事は問うまい。本書の時代背景が何気にすごい。設定は1982年で、カリフォルニアに国境検問所(!)がある。超ド級の月・惑星船もある。シスコでは地震と大火があったらしい。本文との関連は精神検査と治療制度だけ(笑。★★★★☆☆2021/12/27
スターライト
6
刊行は72年だが、62年に書かれたという作品。電子オルガンを販売していた主人公らがライバル企業に後れをとるようになり、それを挽回するためリンカーンらの擬人体(シミュラクラ)を作る話。ディックお得意の現実崩壊感を味わう物語だが、それはシミュラクラがもたらしたというより、恋人との関係がこじれていく中で発症した精神疾患という形で進行していく。結局、ご執心の恋人からはふられてしまうわけだが、痴話喧嘩シーンがながながと続いたりして、成功した作品とは言い難い。翻訳もまずく、シミュラクラの文語調の台詞は分かりづらかった2011/05/14
がんぞ
3
「恋愛はアメリカの宗教だ」の発言から突如、語り手が“精神分裂症”を自覚しはじめ、出来損ないのブース(暗殺者)→恋人による破壊、憂鬱症のリンカーンの神託的助言が続き、ライバルが居宅を施錠してなかったのはすでに幻想の一部か?ブリスとセックス『転がる石に草生えぬ』はルイスの解釈が正しいと思うが、それで精神療養所に監禁されることになった。訳がわからなくなる描写がリアルで作者自身の体験かと疑わざるをえない。ブリスの姓“フラウエンツィンマア”は「婦人室」ではないか(そもそもオルガン製造工場が人造人間に転業するとは?)2018/03/10
がんぞ
3
ロボットは、人間の労働力代替として発想されたが、「話し相手になる」という使途は先駆的。さて、アメリカ人の南北戦争トラウマでスタントン(南北戦争時の副大統領)=俗物の代表、ついでリンカーン自身=弁護士として有能、を作って製造者たちの心の悩みを相談するようになる。リンカーンは適切らしいアドバイスをするが彼の時代になかった児童文学に大ハマリ。朗読をさせないと会議を始められない。憂愁を帯びたキャラが悲劇を予感させる。看護ロボットも企画されるがなんと南北軍兵士の服装をさせる(人を守るのは軍という発想)のがアメリカ的2014/08/26
j
2
ディックの作品では駄作の類になるのだろうが、個人的に趣味なので。 統合失調症の娘に恋をして、自分が作ったアンドロイドに「やめておけ」とたしなめられるなんていうのはディックのエッセンスだろう。しかも最後は…… ディックの本ってはまるときははまるけれども、そうでないときにはうざいだけですね。