内容説明
姜周龍(カン・ジュリョン)1901~1932。1931年に平壌の小高い丘に建つ楼閣・乙密台の屋根に登り、朝鮮の労働運動史上はじめて「高空籠城」と呼ばれる高所での占拠闘争を繰り広げた女性労働者。愛に生き、波瀾に満ちたその半生を描く。第23回ハンギョレ文学賞(2018年)受賞作。
著者等紹介
パクソリョン[パクソリョン]
韓国江原道(カンウォンド)鉄原(チョルォン)で生まれる。2015年、短編「ミッキーマウス・クラブ」で『実践文学』新人賞を受賞してデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
30
表紙絵の屋根に上っているのが姜周龍。タイトル文字を両手で持っているなかなか気の利いたデザインだ。だが表情は険しい。途中で切れているので高さがわからないが、高さ12メートルの乙密台に昇り、朝鮮初の高城籠城を成し遂げた運動家だ。高所に昇ることがなぜ闘争になるかというと、やはりアピール力だ。。高城籠城戦法は、二〇〇〇年代でも行われている。死ぬ人もいるこの作戦で、ひとまず本人の命がけの覚悟は伝わる。但し、姜周龍の場合、最初から派手な労働運動をぶちかましたくて昇ったわけではなかった。2021/05/08
wasabi
17
周龍の生い立ちにせよ功績にせよ、描かれる焦点が定かでなくて心に響いてこない。艱難辛苦が背景にあろうとも、極端に不幸な境遇でもない。意志の強さというのか気の強さは感じるけれど、滞空主張を含めてその経緯と思惑をもっと丁寧に著するべきではなかろうか。夫の全斌よりも達憲との関りにもっと重きを置いて欲しい。達憲が一目で周龍を認め、その慧眼が確かだったというのではあまりに軽い。ゆえに、最後の乙密台での訴えが単に自暴自棄の延長の思い付きみたいに思えてしまう。韓国の労働運動の歴史を一層深くて伝えていただけたならと残念だ。2023/12/11
かもめ通信
14
昨年暮れにオンライン参加した【K-BOOKフェスティバル2021】出版社対抗イチオシ本&クイズ大会で、三一書房さんからいただいた本なのだが、これはよかった!すごくよかった!!1931年、平壌の小高い丘に建つ楼閣・乙密台の屋根に登り、朝鮮の労働運動史上はじめて「高空籠城」と呼ばれる、高所での占拠闘争を繰り広げた女性労働者、姜周龍(カン・ジュリョン)。実在した人物を主人公に据え、その半生を描いた小説だとは聞いていたが、これほどまでに心惹かれようとは思ってもみなかった。2022/02/01
jamko
12
日本植民地下にあった満州で夫に従い独立軍の一員として闘い、やがては平壌でゴム工場のいち工員として激しい労働運動を繰り広げた女性・姜周龍。その人生だけ見ると苛烈な女闘士のようだけど、この小説で描かれる周龍は親しみさえ感じる。美男の夫に惚れ抜き、父に失望し、工場で働きながらモガに憧れる。妹のようなオギとの関係、女工たちとのシスターフッドも熱い。ほぼ男性ばかりの組合本部のメンバーの無意識の女性蔑視に一撃入れるシーンは痛快だ。自殺したいほどの絶望からなぜか屋根に上がっちゃった根性も見上げるしかない。→2020/11/18
二人娘の父
11
実在人物を基に描く「闘い」は、真っ直ぐに今日の韓国社会、特に働く女性たちへとつながっている。「闘い」は韓国社会を理解するカギとなる事象である。その源泉、闘わざるを得ない現実との向き合い方の源流がここにある。そして闘う周龍はチャーミングであった。今も闘う女たちのいる世界に、本書はどれだけの希望を届けたのだろうか。現実と向き合うことこそ文学であることをしめす最良の作品である。2023/04/04