内容説明
クラシック界最高の名声と金そして権力が集中するベルリン・フィル首席指揮者の座。ナチス時代、その三代目に君臨する巨匠フルトヴェングラー。彼は誠実な音楽の僕でありさえすればよかった、比類なき才能と野心をもった青年カラヤンが現れるまでは―。嫉妬の炎を執拗に燃やし詐略をめぐらす巨匠、巧みに抗うカラヤン、そこに巨匠を慕う無名の田舎音楽家チェリビダッケが加わり、争いはさらに複雑になる。クラシック黄金時代の美と欲望のドラマ。
目次
第1章 巨匠と失業者―一九三四~三八年
第2章 代理戦争―一九三八年
第3章 陰謀家たち―一九三九~四二年
第4章 黄昏―一九四二~四五年
第5章 第三の男―一九四六~四七年
第6章 駆け引き―一九四八~五〇年
第7章 逆襲―一九五〇~五一年
第8章 王の死とその後継者―一九五二~五五年
著者等紹介
中川右介[ナカガワユウスケ]
1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒。カメラ雑誌編集長等を経て、現在「クラシックジャーナル」編集長。出版社「アルファベータ」代表取締役。ドイツ、イタリア、アメリカなど海外の出版社と共同・提携し、二十世紀に偉大な足跡を残した芸術家や文学者の評伝の翻訳本を出版する傍ら、自らもクラシック関係の著書を執筆(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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もっひぃ
13
面白かった。ベルリンフィルの3代、4代首席指揮者としてフルトヴェングラーとカラヤンの名前は知っていたが、まさかふたりがこんなにも仲が悪かったとは思わなかった。フルトヴェングラーやカラヤンとナチの関係が興味深かった。やっぱり歴史は特定の人物に焦点を当てたミクロの視点から追っていく方が面白い。2017/03/23
ヴァン
9
帝王と呼ばれたカラヤンが亡くなったとき、ナチスとカラヤンの関係を調査していたFBIがその調査をうちきった、と新聞に小さな記事が掲載された。この本を読んでみて、カラヤンと、彼の存在を排斥しようとしていた巨匠フルトヴェングラーがナチスとかかわりながら、ドイツでの名声と地位にいかに執着していたのかがわかった。この二人に三人目の登場人物、チェリビダッケが加わり、物語は錯綜する。ここには芸術家に対して一般に想像される崇高なものはなく、どろどろした俗っぽい感情だけがうごめいている。映画のような話である。2016/10/09
牧神の午後
8
いやまぁメジャーではないことは認めますよ。でも、筆者も書いているように、戦後のBPOを支えたのは紛れもなくチェリなんだから、もっとチェリに筆を割いて欲しかった、という点だけが本当に残念。音楽、ミュジツィーレンも人間の営みである以上、人間の美しいところも醜いところも等しく反映されるわけで、楽聖といっても差し支えないフルトヴェングラーでもそれは例外ではなく、バイロイトの第9のような人を超えた人類の理想のような音楽を奏でていようが、権力闘争や嫉妬からは逃れられないってことですね。2018/10/20
kuma suke
8
二人の間にこんな確執があったとは。2014/06/24
けぴ
7
面白かった!フルトヴェングラーの次はすんなりカラヤンだと思っていたらチェリビダッケという人物がいたんですね。壮絶な権力争いの末、最後の覇者となったカラヤン。吉村昭さんの小説を読んでいるような緻密なベルリンフィル物語でした。2016/08/30