内容説明
「あたしは、突然この世にあらわれた。そこは病院だった」。限りなく人間に近いが、性的に未分化で染色体が不安定な某。名前も記憶もお金もないため、医師の協力のもと、絵に親しむ女子高生、性欲旺盛な男子高生、生真面目な教職員と変化し、演じ分けていく。自信を得た某は病院を脱走、そして仲間に出会う―。愛と未来をめぐる破格の長編小説。
著者等紹介
川上弘美[カワカミヒロミ]
1958年、東京都生まれ。94年「神様」で第一回パスカル短篇文学新人賞を受賞。96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞、01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『水声』で読売文学賞、16年『大きな鳥にさらわれないよう』で泉鏡花文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐島楓
74
記憶も性別も持たない、あらゆる年代の人間のかたちに変化できる生命体が主人公。人と深くかかわるにつれて、恋愛をはじめさまざまな感情を学習していく——とここまではふつうのSFの展開。だが、やはり川上作品、一筋縄ではいかない。人に対する距離感や視点が不思議なのだ。最終章に近づくにつれ、不思議さは増していく。自己存在意義というテーマを扱いながらも、それだけにとどまらない物語。わたしはいったい、「何」なのだろう?2021/09/14
優希
66
不思議な物語の世界が広がっていました。人間に近いけれど不安定な某。様々な立場になり、仲間に出会う。その中で人間とは何かを問うているように思えました。2021/12/11
Kajitt22
61
『某』を主人公に生と死、変異と成長、性と生殖、細胞分裂などを考察し、人間をあるいはその愛を探究しようとしているのか。読了の今は未消化感が強い。なぜかグレアム・グリーンの『内なる私』や平野啓一郎の『空白を満たしなさい』を思い浮かべた。『神様』や『蛇を踏む』『溺レる』『どこから行っても遠い街』などがなつかしい。2022/04/16
niisun
54
かなり好みの作品でした♪ 突然、人の姿で出現した“某”が、世の中で生を営みはじめ、時々姿を変えながらも徐々に格を形成していく様は、人の成長過程を追うようで興味深かったです。どうやって発生したのか、人と同じようにいつか死ぬのか、子を成すことが出来るのか、世界に複数存在する“某”自身にもわかっていないのが良かったですね。まあ、全てわかっている超越的な存在だとお話になりませんけどね。日々、実在の16歳の誰かに移動していく主人公が登場する『エヴリデイ』という小説を少し前に読みましたが、その時と似た読後感でした。2021/09/08
kazi
33
”アイデンティティ”というものを捉えることが難しい世の中で、ちょっとした気付きを与えてくれる良作だと思いました。2024/05/31