内容説明
19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。その奇跡の出会いが“世界を変える一枚”を生んだ。読み始めたら止まらない、孤高の男たちの矜持と愛が深く胸を打つアート・フィクション。
著者等紹介
原田マハ[ハラダマハ]
1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立、フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年「カフーを待ちわびて」で日本ラブストーリー大賞を受賞し、デビュー。12年『楽園のカンヴァス』(新潮社)で山本周五郎賞受賞。17年『リーチ先生』(集英社)で新田次郎文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さてさて
339
原田さんの時空を超えたストーリーの巧みな紡ぎによって、ゴッホが確かに生きたあの時代のパリの活き活きとした人々の暮らしを垣間見ることができました。絵画に興味のなかった人が絵画に興味を抱くようになる。絵画が好きな人はその絵画に見えていなかったものが見えるようになる。『いつも名画が生まれる瞬間に立ち会いたい一心で、私は小説を書いています』とおっしゃる原田さん。そのアート作品の傑作にすっかり魅せられた、そんな素晴らしい作品でした。2020/09/08
hit4papa
324
フィンセント・ファン・ゴッホ、テオ兄弟と、パリの日本人美術商の物語です。美し過ぎる兄弟愛と友情がつづられていますが、そこはフィクションということで。本作品と同時代の画家たちが主役の短編集『ジヴェルニーの食卓』も併せて読むと、絵画史におけるこの時代の位置付けについて理解が進みます。本作品は、ゴッホの生涯に、林忠正を絡ませて、よりドラマチックに仕上がっています。実際に、ゴッホ兄弟と林に交流があった事実は見つからないそうですが、著者の想像としてもリアリティを強く感じるでしょう。タイトルの意味が印象的です。2020/11/02
mae.dat
284
既得権益を守ろうとするけど、新しい芸術には抗えないのかなぁ。結局は。先日『リボルバー』を読んでね、本書を未だ読んでいなかった事を思い出す事になったのさ。それにしても、マハさんはゴッホがお好きですね。それ以上にタンギー爺さんの事が好きなのは、今なら分かります。絵画作品の『タンギー爺さん』は、見た事ある程度でしたが、そのエピソードが素敵ですもんね( ˘͈ ᵕ ˘͈♡)。実在の人物、林忠正は商魂逞しいとも描かれていますが、ちゃんと審美眼がね凄いのよ。忠正の慧眼によって、ゴッホの運命が導かれて行くのも面白い。2023/09/18
ちーちゃん
277
ゴッホの生涯を描いた本。ゴッホ兄弟の深い兄弟愛に涙しました。ゴッホも偉大だけど、全く評価されない兄を献身的に支え続けたテオの存在感がかなり大きかったです。生前全く評価されなかったゴッホですが、兄弟の死後にテオの奥さんの尽力で、ゴッホが偉大な画家の一人として後世に名を残す事が出来たのが、せめてもの救いです。
rico
236
19世紀後半のパリ。旧来のアカデミー的お約束の世界を蹴飛ばし、新たな表現・新たな世界を目指す若き画家たち。その彼らを魅了したジャポニズ。画商林忠正の助手として配された架空の人物重吉と、ゴッホの弟テオを中心に描かれる、あの頃のパリの熱。虚実織り交ぜた展開に引き込まれ圧倒されます。この絵・あの絵が思い浮かびます。でもどこか物足りない。きれい、過ぎるのです。テオの想いも何だかすっきりしてるし。マハさんの愛と筆力をもってしても、魂を削って描かれたようなゴッホの作品世界の凄まじさを描くのは、難しいのかもしれません。2020/08/14