内容説明
父を喪い一年後、よしえは下北沢に引っ越し、ビストロ修業に励んでいた。父の匂いはもうかげないし、言いたかった言葉は届かない。泣いても叫んでも時は進んでいく。だが、母が淹れる濃くて熱々のコーヒーにほっとし、父の友人の言葉で体と心がゆるむ瞬間も、確かにある―。殺伐とした日々の深い癒しと救済を描いた、愛に溢れる傑作長編。
著者等紹介
よしもとばなな[ヨシモトバナナ]
1964年東京都生まれ。「キッチン」で海燕新人文学賞を受け、デビュー。「TUGUMI」で山本周五郎賞、「アムリタ」で紫式部文学賞、「不倫と南米」でドゥマゴ文学賞を受賞。著書は世界各国で訳されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
147
住んでいる街に対しての愛着って、あるなぁ。 何度も行くことでからだになじんでくるお店のあたたかな雰囲気、全体の空気。帰り道夕暮れの色をした駅前、スーパーで買いものをしてまわるたくさんの人たち、帰る前に1杯だけ珈琲を飲むカップル。土曜日のお昼、ちょっといいランチを食べながら眺める陽だまりの木々たちと白ワイン。 好きな思い出が積み重なることでなんとなく泣けてくる。夥しい過去の郷愁にとらわれて生きている、けとそれが心地よくて。あたたかい記憶たちは私を強くする。2020/07/12
masa@レビューお休み中
135
父を喪ったよしえは、思い出から離れるように実家をでて下北沢に住むようになる。そして、アパートの目の前にあるお店で働くのだ。住む場所を変え、仕事をはじめて、再スタートを切ったはずだったが、なぜだか母親と共同生活をすることになってしまう…。テーマは、いつもの死と再生ではあるが、物語に接する感触がいつもとは違う気がする。現実にある場所がでてくることで、生と死がリアルなものとして感じるのかもしれない。大切な人を喪っても、人は生きていくためにごはんも食べるし、仕事もする。そして、人を好きにもなってしまうんですよね。2014/03/22
(C17H26O4)
105
泣けるのはいいこと。よっちゃんは何度も泣く。押さえ込んで溜め込んで、口に出せなかった気持ちを誰かに話す度に今ようやく。また泣いてる。それでいいのだ。話せるまで癒えたということ。話すことでまた癒えて。そして何かを食べたいと思えて、食べた物をおいしいと思えて、お腹が空いたことが分かって。また泣いて。きっとこうやって人は少しずつ癒えていくのだろうと思う。進んでいくのだと思う。もしもし、あの頃のわたし。そんなふうに言える日もいつか来るのだろうと思う。2020/03/03
風眠
97
(再読)普段はあまり意識していないけれど、人の死は、いきなり訪れるものなのかもしれない。明日も明後日も、その先もずっと、いつもと変わりなく、笑ったり、ごはんを食べたり、くだらないおしゃべりをしたり、ケンカしたり、普通にできるものだと、どこかで信じきっている。だから突然に別れがやって来ると、その現実を受け入れ納得するまでに時間がかかる。まずは体、それから日常、そして心が立ち直っていくまでに、痛みや葛藤をいくつも乗り越えて。その後の現実を生きていくことは苦しいけれど、濁流はいつか透明な水になる。下北沢の街で。2018/02/02
ちょこまーぶる
95
下北沢は好きな街なので気楽な気持ちで読み始めたのが間違いだった一冊でした。色々な場面で、そして言葉で読み進めることをストップして考えさせられる内容でした。で、途中数回辛くなり本を閉じようとしたが、最期まで読んで充実感を味わったのも意外でした。そして、一人の人間として生きていくうえで、大切な何かを教わった感じがします。でも、時々描写される下北沢の街並みを頭の中に思い描きながら読む楽しさもありましたし、登場人物の中で山崎さんの言動が大人の男性として「こんな人になりたいな~」とつぶやいていました。2014/07/03