内容説明
人はおのれの運命を感知することができるのだろうか?はたして天寿というものを知ることは可能なのか?生まれた場所と時代、あたえられた「運命」によって人が背負ってきたものは何か。「これを言ってしまわなければ死ねない、とずっと感じていた―」。戦後五十七年、胸に封印して語りえなかった悲痛な記憶の物語。驚愕の真実から、やがて静かな感動と勇気が心を満たす。『大河の一滴』『人生の目的』に続く著者渾身の告白的人間論、衝撃のロングセラー、待望の文庫化。
目次
五十七年目の夏に(一枚の写真;許せない歌 ほか)
運命の足音がきこえる(深夜に近づいてくる音;幸田露伴の運命論 ほか)
新しい明日はどこにあるのか(見える世界と見えない世界;一瞬の「恥」や「畏れ」を抱かせる ほか)
命あるものへの共感から(いま根底から問われている人間中心主義;戦争の時代をのりこえて ほか)
運命の共同体としての家族(「働く女」としての母親像;「物語る」ことへの欲求の芽ばえ ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネギっ子gen
42
玲子夫人の表紙挿画が絶品。著者が長年、胸に封印して語り得なかった悲痛な記憶を解き放つ。「あとがき」に、<私は悪人である。十二歳の夏から五十七年間、ずっとそう思いつづけてきた>とある。「善き者は逝く」。そう……ソ連兵に乱暴された末に衰弱し死んでいった母親に対し、ずるく立ち回って死を免れ生き残った自分。「父親はやがてアル中になった。小倉の競輪場で血を吐いてたおれたこともある」と。 “恥辱は一定”かぁ……。著者が「悪人正機」の教えに沈潜していく、大きな要因を知り得た気がする。再度改めて、著者の作品を読み返そう。2019/12/06
ばんだねいっぺい
24
昔、夜、寝るときに枕に耳を当てると自分の心臓の音が遠くから迫る足音ように聞こえてきて、怖くなっていたことを思い出した。過去があって、現在があるんだよなと当たり前のことを思った。2019/04/28
takumi
12
元気が出ます!ブッタから国富論まで話がほんと広い!2016/03/25
よし
5
五木寛之・・彼の人となりを一変させるような本に出会った。心の奥深くに、封印し続けてきたあの夏。1945年 平壌の夏。ソ連兵士が突然、家族を襲う。・・五木は、「私は、57年間、いつも母親のことを忘れよう、忘れようとつとめてきた。」「母は、私と父に、「いいのよ」とは言ってくれなかった。黙って無言のまま死んでいった。だから私は、ときには無言で父を責め、父は無言で私から目をそらした。」この日を境に、父も、息子も「暗くて深い河」に落ち込んでいく。あまりにも非情すぎる。これを「運命」の一言で片付けることはできない。2016/02/25
望遠顕微鏡
3
●彼の本は、何冊か読んだが、いつも安心感を持って彼の世界に入ることが出来る。 馴染みのチェーンレストランに入る安心感と通底するものがある。 その店の味も雰囲気も知ってるから 不安感がない。 ●でも、ちょっといつもと違うメニューを食べてみたくもなることがある。 そのメニューを味見しても、それなりの満足感を与えてくれるのが彼の魅力なのかもしれない。 この本でも、色々考えさせられたり悟らされた。 あちこちアンダーラインを引いて読破した。 2018/06/06