出版社内容情報
中学受験を控える小学6年の颯(はやて)には、親友にも話せない秘密があった。たびたび暴力をふるう父。父親の顔色をうかがい、見て見ぬふりの母。そして怒りや恐怖を栄養に体内を蝕んでいく自分自身のどす黒い感情。そんな時、颯は見てしまう。向かいのアパートの部屋。だれもいないはずの真っ暗なベランダに、じっとひざを抱えて泣いている女の子のすがたを……。
内容説明
ふとなにかが動いたような気がした。立ちどまって、向かいの建物に目をやる。でもどのベランダにも人の気配はなかった。気のせいか。そう思って、背を向ける寸前に気づく。それは、あの子の家のベランダに置いてあるケージだった。ケージの中に、まるめて突っこんであるように見えた白い布が、むくりと起きあがる。ものすごい暑さにもかかわらず、ぶわっと鳥肌が立つ。それはあの子だった。日本児童文学者協会第20回「長編児童文学新人賞」入選作。
著者等紹介
四月猫あらし[シガツネコアラシ]
東京都生まれ。早稲田大学第二文学部文芸専修卒。元学校図書館司書。通勤電車の中、スマートフォンで書いた本作が、日本児童文学者協会主催の第20回長編児童文学新人賞入選を果たす。現在は大学研究所にて秘書業務のかたわら、執筆活動に従事している。季節風同人。日本児童文学者協会会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
☆よいこ
84
児童書。YA。虐待の話▽颯(はやて)は春休みが嫌だった。学校が休みになり月曜から金曜まで塾で土日は父親が家にいる。父は颯の成績が満点でないとキレて殴り、母を責める。それでも颯は頑張れない自分が悪いからと、父を怒らせないように必死だった。食事を抜かれベランダに出された颯は、向かいのマンションのベランダに締め出された少女に気づく。自分と同じだけど、自分は少女よりマシだとか自分は虐待なんかされてないと思い込もうとする▽虐待の構造、相談の難しさが描かれている。結構キツイ。「ぼくはいつでもぼくの味方」2023/02/15
わむう
28
教育虐待が題材の児童書。中学受験を控える颯。父親は成績が落ちたり、気に入らないことがあると暴力をふるいベランダに出される。母親は見てみないふり。ふと下をみると向かいに自分よりも小さな女の子がベランダに出されているのを見つける。そして大きなケージまでおいてある。父親が自分に怒るのはしつけだから当然、言うことをきかないあの子とは違うと思おうとするが同級生たちのの会話の中で父親に虐待されていることに気づく。子どもがコケないように先回りばかりするのではなく、自ら行動できることができる子に背中を押すことが大切。 2023/09/18
まる子
25
なんというか、最初から衝撃的な始まり。小6男子が主人公。毎日父親の顔色をうかがいながら生活し、テストで96点でも怯えなければならない。息子に暴力を振るい、見て見ぬフリをする母親。ある日ベランダにあの子を見かけた。彼女もそう、彼と同じく虐待されている。最後の父親にはガッカリ😮💨最後の最後でほんの微かな光が見えたような?いないような?終始気持ちが下がりっぱなしの読書💦著者は元学校司書で、通勤中などにスマホで執筆。新人賞の入選作品。受賞しなくて良かった。子供が読んだらどう思うんだろう…。2022/11/10
昼夜
14
虐待はニュースで見る度にその前にどうにか出来なかったのかと悲しくなるけれど、虐待と思ったら児童相談所への通告は学校関係者と医療従事者だけかと思ってたら調べたら国民の義務だったとは知らなかった。もっとこのことを周知徹底してアメリカみたいに子どもが親を通報するくらいになればいいと思った。主人公の言動で虐待の連鎖がこうして繋がっていくのかと解ったので読んでよかったです。2022/12/17
雪丸 風人
14
フィクションでよかった!最初にそう思いました。児童書にはある程度「型」がありますが、この作品はまったくの異質。けれども、目が離せず一気に読み通しました。描かれるのは父親の暴力に支配される家庭です。誰の助けもない中で、小6の主人公は「殴られるのはぼくが悪いから」と自分を責め続けます。そんな彼が何をきっかけに変わるかに要注目ですね。創作とはいえ、これはどこかで起きている現実。それに触れることは、多様性を知ることにもつながりますので、読書上級者の子に薦めたい一冊だと思います。(対象年齢は12歳以上かな?)2022/11/13