内容説明
囚われの王子フロリーンの生きのびる道は、宮廷道化師になることでしかなかった。誇りを捨て、敵の王の笑いを得て活きる。笑いこそが最後の武器であった。
著者等紹介
タール,リリ[タール,リリ][Thal,Lilli]
高校卒業後、看護師として働いたのち、大学で中世史を学ぶ。その後、マルチメディア・情報技術を学び、2000年から執筆活動に入る。デビュー作の『ピレマイヤー警部』は2002年にベスト児童推理小説賞を受賞し、以来シリーズ化された。『ミムス―宮廷道化師』は2004年のドイツ児童文学賞にノミネートされたほか、バード・ハルツブルク青少年文学賞、若い読者が選ぶ青少年文学賞などを受賞。現在、ふたりの子供と夫とともにフランケンに住む
木本栄[キモトサカエ]
翻訳家。イギリスのロンドン生まれ、ドイツのボン大学卒業。ベルリン在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mocha
107
敵国王の奸計により囚われの身となった王子は、ミムス(道化)の弟子として過酷で屈辱的な日々を送る。古典的な題材だが、悪役が悪人一辺倒でなく、敬愛する父王も聖人君子ではないあたりが現代風。姫のキツイ性格も今どき女子という感じだ。人としても扱ってもらえない道化ながら、世知に長けた老ミムスのプロフェッショナルぶりが良い。ドイツの児童文学らしく、重厚でいかめしい空気が漂う。読み応えのある作品だった。2017/02/21
星落秋風五丈原
39
挿絵は東逸子さん。首を傾げて視線を送っているのが主人公のフロリーン。彼の視線の先にあるのが道化の師匠のミムスだ。師弟のほのぼのとした雰囲気を写し取ったもの、ではない。ミムスは初老で意地悪かと思いきや、フローリンを助けるために思い切った行動を取る。本名すら明かさず、その真意も誰にもわからないが、その存在感は強烈で、シェイクスピアの『十二夜』に登場するキレ者道化(wise fool)のフェステを彷彿とさせるキャラクターだ。一国ならぬ二国を結果的に救っておきながら、身分相応の事しか望まない。2017/11/04
乃宮はじめ
19
王道といえば王道な話の流れ。だけど、王子フロリーンの性格が王子然としてないからとても素直に感情移入できる。それに加えてこの本の凄い所は、敵国ヴィンランドを完全な悪役とさせていない所だ。フロリーンの出身国モンフィールにだって落ち度があって、というよりも火種を作ってしまったのは此方。残虐な仕打ちをするテオド王の容姿が醜くない、というのも見逃しがちだけど重要な部分だと思う。/国と国との争いって、どっちが悪いとは一様に決め付け辛くて、道化師のように白黒付けにくい。そう考えると結局、境界線ってのは良心に寄るのかな。2011/10/30
riviere(りびえーる)
17
読みごたえのある本でした。ふつうの児童書だと素直に思って読むとびっくりするかも。児童書でありながら大人向けの本でもある。そのありようは道化師を仮の姿として生きる王子にも通じ、白でもあり黒でもあるミムスにも通じます。この本を読んでいて、先ごろ報道されたビンラディン氏とアメリカの関係を彷彿としました。改めて国と国との争い、和平と外交努力についても考えさせられました。表紙や装丁は暗示的で、本を読み終わってから再びながめると、なるほど!と思います。2011/05/12
小木ハム
16
中世ヨーロッパには宮廷道化師という職業があり、無礼を許され、王様を笑わせたり風刺をいって諭す役割を担っていたらしい。でもペットや所有物のような扱いなので仕事と言っていいかどうかわからない。ジョーカーは「無」だ。無敵の味方にもなるしゲームを終わらせる悪魔にもなる。王子フロリーンは罠にはまって敵国の王直属の道化師見習いに。厳しい道化の修行と飢えで精神が鍛えられていく。師匠がミムスという初老のおっさんだが、この人なかなかあなどれない。道化としての実力と矜持を見る。笑いが和平をもたらすことは大いにありえることだ。2024/07/08
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