出版社内容情報
時代も場所もまったく異なる文学作品たちをつなぐテーマは〈12か月〉――12か月のうちの〈10月〉をテーマに古今東西の小説・詩歌・随筆を集めたアンソロジー。四季をあじわい、あの作品といま同じ季節を生きるよろこびをつくる本。
シリーズ全12巻。装丁:岡本洋平(岡本デザイン室)
片山廣子/三島由紀夫/サキ/小山清/宮沢賢治/稲垣足穂/日夏耿之介/アントン・チェーホフ 他著
松下裕 他訳
【編者紹介】
西崎憲
翻訳家、作家、アンソロジスト。訳書にコッパード『郵便局と蛇』、『ヘミングウェイ短篇集』、『青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集』など。著書に第十四回ファンタジーノベル大賞受賞作『世界の果ての庭』、『蕃東国年代記』『未知の鳥類がやってくるまで』『全ロック史』『本の幽霊』など。フラワーしげる名義で歌集『ビットとデシベル』『世界学校』。電子書籍や音楽のレーベル〈惑星と口笛〉主宰。音楽家でもある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
52
10月。風も何時しか秋の香りを含んでくる季。独特の寂しさを持つこの時期にふさわしい作品群が揃っている。特にデ・ラ・メア「謎」は相変わらず名作中の名作で、その独特の寂寥感がこの時期を体現しているようで素晴らしい。堀辰雄の「大和路・信濃路」の抄録も奈良という秋と黄昏の似合う土地の魅力を余すところなく語っているし。他にもタルホや宮沢賢治といった地上を離れているというか宇宙を感じさせる作品と、地の恵みを感じさせる地上に足の着いた作品群がバランス良く収録されているし。一抹の寂しさを持つこの時期に相応しい一冊。2025/10/23
かもめ通信
16
収録されているのは随筆、詩、短編小説とバラエティに富んだ23作品。うち既読はサキとチェーホフと漱石の3作品だったが再読も含めてじっくり味わった。お気に入りは片山廣子の「花屋の窓」、小山清の「落穂拾い」、吉田健一の「イギリスの秋に寄す」岡本綺堂の「私の机」あたり。推理小説だと思って読んでいた三島由紀夫の「孔雀」には、最後の最後であっ!と驚いた。2025/11/03
Cinita
10
秋も深まり、収穫と紅葉を迎える10月。今回は情景を細かに描いた随筆多くて、どれもよかった。時代とともに移り変わる街を愉快に見つめる鏑木清方「町の鑑賞」、近隣の人々との交流を綴った小山清「落穂拾い」、フランス滞在中に挑戦した畑仕事の発見を瑞々しく描いた石川三四郎「馬鈴薯からトマト迄」、執筆旅行記なのに一向に筆が進まない堀辰雄の「十月」等々。小説だと、祖母の言いつけを破った7人兄妹が一人ひとり消えていくウォルター・デ・ラ・メア「謎」が恐ろしいけど淋しくて特に好き。長持はなにかの暗喩なのかなあ。2025/10/13
げんなり
3
手に取ってまず、表紙の可愛らしさに相好を崩す。 『孔雀』、『馬鈴薯からトマト迄』も面白く読みながら、なんか読んだことあるなと慌ててタイトルを確認する『開いた窓』は多分もう何度も読んでいるのだけれどタイトルも著者名も覚えてなかったという為体。 ウォルター・デ・ラ・メアの雰囲気がすごく良くって、これが初読の作家さんなのだけど、積んであるから楽しみ楽しみ。 再々再々読くらいの『文鳥』の鮮やかさに驚き、『青頭巾』の迫真に膝を打つ。 堀辰雄の『十月』が二つに分かれて載っているのだけど、これもまた良い、凄く!2025/11/09
水蛇
3
フライト読書。ちょうどいいサイズのつもりが旅先の気候と合わなくてちょっとミスマッチだったかななんて思ってたけど、三島の「孔雀」で子どもみたいにはしゃいじゃった。孔雀、絶世の美少年、オブセッション、死によって完成する美と作者名を隠したとしても100人中100人がわかるレベルの三島由紀夫なんだもん。「××風」を無限生成するAIとのつきあいに心がおちつかないわたしにとってこういう"典型的"な作品はいまや新しい意味合いすら持ってる。そういう意味で5年後にまた読みたい。堀辰雄「十月」、小山清「落穂拾い」、片山廣子2025/10/11




