内容説明
むせ返るような六月の夏、ロンドンからアイルランドの故郷に戻った美しい少女ジェインは、屋根裏のトランクから古い手紙の束を見つける。差出人のイニシアルはG―第一次大戦で戦死した、母の許婚ガイのサインだった。過去につなぎとめられた愛と今を生きる愛と。死者のガイに恋をしたジェインが手紙から明らかにする過去の真実とは―。
著者等紹介
ボウエン,エリザベス[ボウエン,エリザベス][Bowen,Elizabeth]
1899~1973。73年の生涯で長篇小説10篇と約90の短篇小説を書いた。アングロ・アイリッシュ特有の映像感覚と言語感覚にすぐれ、20世紀を代表する作家としての評価が高まっている。代表作『パリの家』(1935)はイギリスで20世紀の世界文藝ベスト50の一冊に選ばれ、『エヴァ・トラウト』(1969)は1970年のブッカー賞の候補になった
太田良子[オオタリョウコ]
東京生まれ。東京女子大学文学部英米文学科卒。学位論文はT.S.エリオット。71~75年ロンドン在住。79年東京女子大学大学院英米文学研究科修士課程修了。修士論文はヘンリー・ジェイムズ。81年東洋英和女学院短期大学英文科に奉職。94~95年ケンブリッジ大学訪問研究員。98年より東洋英和女学院大学国際社会学部教授。日本文藝家協会会員。日本ペンクラブ会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
19
もういない人物、やってこない人物を現実に投影して表れるのは追悼や別れなどのある意味での尊厳の意でもあり、その人物への罪悪感や蟠りなど時によって風化しきれないものでもある。そして生は喪失を抱えても続くしかない。喪失、絶望があるからこそ、存在や幸福がより一層、際立つのだから。その逆もまた、然り。2013/02/27
いやしの本棚
13
夏の幾日かを描いただけなのに、死者の手紙の存在が、過去と現在と未来を繋げてしまう。晩餐会での空席の薔薇、美しいデビュタントと死者との邂逅…ボウエンの文章は仄めかしに満ちていて、読みとるのに苦労させられるのだけど、でもやっぱりとても好きだった。死者への愛に囚われた女たちの心理描写、それぞれが死者を見る場面等も、幽霊が現われるでもなく、手紙と写真に喚起された記憶だけで表現されているところが巧みだ。でも何より"目に見えない親友"を連れた少女モードの造型が、さすがボウエン!という可愛くなさで最高だった。2016/08/15
rinakko
12
再読。初読時は前の2作品に比べると印象が薄かったので、こういう話だったか…と今回あらためて面白く読んだ。話の要となるリリアとアントニアの関係は、愛とも友情ともいえない女同士の分かりにくい絆として描かれている。その年季の入った皮肉な繋がり具合といい、ボウエンならではだなぁ…と感じ入った(そしてその間にはある秘密が…)。あと、見えない小妖精を連れ歩く、恐るべき次女モードの造形にも瞠目した。まさに花開かんとする美しい20歳のジェインが、従兄ガイの名前を口にしたあとその姿を見る幻想的な場面は、やはり忘れがたい。 2015/06/17
強い仔馬
7
ブログに書きました。http://ckpunkanewengland.blogspot.com/2013/08/blog-post_15.html2013/08/15
椿子
2
訳が相変わらずわかりにくい。ボウエンの文章はわかりにくいから、わかりやすい訳では訳せないのよ!と開き直ってしまっては駄目だと思うなあ。「簡単な訳」にはしなくていいから、せめて、登場人物の呼び名なんかは統一してほしいし、倒置法をそのまま訳している所も整理して欲しかった。登場人物の中ではモードが好きです。モードとジェインとリリアで、髪を切りに行く場面が一番好きかも。2011/01/23