内容説明
「あらゆる文学の頂点に立つ作品」とボルヘスが讃える、ダンテの『神曲』をめぐる九つの随想。『神曲』全編のなかでも最も名高いフランチェスカの悲劇とオデュッセウスの冒険の挿話を論じた「慈悲深い死刑執行人」「オデュッセウスの最後の旅」。ダンテとベアトリーチェの再会と別離について語る「夢の中の出会い」「ベアトリーチェの最後の微笑」。ペルシャ神秘詩人とダンテとのえにしを探る「スィーモルグと鷲」ほか。「文学の専門家ではなく、一介の読者、作品を楽しみ、自分の読者たちにも一緒に楽しんでほしいと願っている、まさに快楽主義的な読者」の「心の震え」をあますところなく伝える著者晩年の隠れた傑作。
目次
第四歌の高貴な城
ウゴリーノをめぐる贋の問題
オデュッセウスの最後の旅
慈悲深い死刑執行人
ダンテとアングロ・サクソン人の幻視者たち
「煉獄篇」第一歌一三行
スィーモルグと鷲
夢の中の出会い
ベアトリーチェの最後の微笑
著者等紹介
竹村文彦[タケムラフミヒコ]
1958年生れ。東京大学助教授
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
34
19
《私の察するところ、文学が達成した最高の書物をダンテが築き上げたのは、取り返しがつかなくなったベアトリーチェとの何度かの出会いをそこにさしはさむためであったのだ。より正確には、懲罰の園谷(たに)や、南の果てにそびえる煉獄の山や、同心円状の九つの天、フランチェスカ、セイレーン、グリフォン、ベルトラン・ド・ボルン、こういったものの方がさしはさまれた要素であり、失われてしまったことを詩人が知っているひとつの微笑、ひとつの声が根本的な事柄なのだ。》2019/01/19
抹茶モナカ
15
『神曲』に挑戦したくなり、本書を手に取った。九つの論考を収録していて、訳注も細かくて、丁寧。ボルヘス自体も初挑戦だったので、少し乱暴な読書だったかも。『神曲』の雰囲気が、少し、わかったかな。2015/01/18
うた
13
ボルヘスが最も敬愛する『神曲』に関する9つの小論。『七つの夜』や『詩という仕事』といった一貫した講義集とは違って、書かれた時期も長さも異なる小論集になっています。『神曲』を緊密な詩行と隠喩をもつ芸術品として解き明かしていく立場は揺るがず、しかしダンテがあえて曖昧な書き方をしているところは意味をほぐしながらも安直な断定は避けているところ、ボルヘスは良心的な読者のよう。2016/03/26
パオー
11
短くて難しくて面白い。河出文庫版の注に「神曲」は細部が凝っているから再読に強いとは書いてあったけど、その具体例をボルヘスが示してくれる。ある場面について、「有名なものではあるが、そこにある心の痛みを感じとった者は誰一人いなかったように見える。(省略)誰もこの一節を余すところなく聴きはしなかったのだ」と語るボルヘス。そのような読み方がいくらでもできるのが「神曲」の面白いところなんだと思う。エッセイとしても面白いし、河出文庫版でドレの挿絵に親しんだ身としては、ウィリアム•ブレイクのきれいなカラー挿絵も嬉しい。2013/02/03
roughfractus02
9
アウエルバッハは「神」の語を全行の中心とし、三位一体を繰り返す歌が完全数となる『神曲』の神聖さの中に煉獄なる新たな観念と宇宙の垂直構造の世俗さを見出した。一方著者は、聖書的な象徴的読みをアナロジーに置き換える。地獄での異教徒の沈黙、人喰いの曖昧な描写の指摘に始まる本書は、オデュッセウスからメルヴィルへ続く出発-冒険-帰還の物語構造、『イギリス教会史』やスーフィズムとの類似、サファイアを巡る象徴と字義の解釈の非決定、ベアトリーチェのダンテ批判等を取り出し、『神曲』が置かれる著者の脳内図書館に読者を連れ出す。2020/02/22
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