内容説明
台北/京都。この双子の都市に刻まれた歴史と記憶。記憶をめぐる作品集。
著者等紹介
朱天心[チューティエンシン][ChuTienhsin]
1958年、高雄近郊の軍人村に生まれる。15歳から創作をはじめ、新聞・雑誌に小説を発表。外省人の父と本省人の母を持つ、いわゆる第2世代の女性作家として、記憶・歴史・アイデンティティーを問う作品群で注目を集めている。本書で、1997年度「中国時報」十大好書、「聯合報」最優秀図書賞などを受賞
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感想・レビュー
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印度 洋一郎
5
現代台湾文壇を代表する女流作家の短編集。外省人と呼ばれる、国共内戦後に中国大陸から亡命してきた人々の二世であり、台湾の中でも微妙な立場。そして台湾自体が中華文明圏の中で微妙な立場、という二重の意味でのアイデンティティの揺らぎや多層性が作品に通底する。表題作は自身の故郷である台北とゆかりの地京都という二つの古都の記憶が(意図的に)交錯する複雑な構成。高価な宝石を自分へのご褒美として買う若い女性編集者の機微を綴る「ティファニーで朝食を」、作家と執筆する場としての喫茶店の関係を語る「ヴェニスに死す」などが印象的2019/09/28
法水
3
先日、著者がイベントで来日された際に購入。表題作をはじめ、「ハンガリー水」「ティファニーで朝食を」「ラ・マンチャの騎士」「ヴェニスに死す」の5篇を収録。「古都」の題名は川端康成の小説が由来で引用もされている。「あなた」という二人称で語られ、京都で友人と会う約束をした主人公の物語と台北でその友人と過ごした日々の物語が交錯する。「古都」が土地と記憶を巡る物語なら、「ハンガリー水」は香りと記憶を巡る物語。小説家を主人公にした「ヴェニスに死す」では執筆に利用する喫茶店が書いている小説に影響を与えるあたりが面白い。2015/06/11