感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
69
宮沢賢治の「貝の火」は純粋な善意が不相応の褒美による敬意や煽てられで腐敗する様に胃がキリキリした。畑の害獣だとしても土竜さんを日の下でいじめるな!一方でホモイを始終諫め、報いを受けたとしても慰める兎のお父さんの優しさが救いだ。「石の愛する男」の訓戒に褒める事も忘れないおおらかさも肩ひじ張らない。ドイツ怪奇小説の代表ともいえる「ファルンの鉱山」の愛の悲劇的帰着に対し、ハッピーエンドの「山の親方」。特に笑いものにしようと不法侵入する不届き者に対し、「斧で頭を勝ち割るわよ!」と告げる一途なカーチャが素敵だ。2022/02/04
kasim
33
再読。子供の頃から鉱物好きの私にはたまらない愛蔵のアンソロジーです。元本を持っているものも多いのですが、いつまでも読んでいられる。澁澤「石の夢」を冒頭に、宮沢賢治の必殺「貝の火」、そして「石の夢」でも言及された東西の博物誌や奇談の数々という並び。石の世界に去ってしまうホフマン「ファルンの鉱山」の後に、人の世に帰ってくるバジョーフ「山の親方」を置く絶妙の編集は高原英理さんだったと今回初めて認識しました。昔は編者名を見てなかったことを反省です。2020/01/19
coco.
2
古今東西の鉱物、宝石、平凡な石、奇異な石に関する書物からの抜粋集。長野まゆみさんの既存作も収録されていたのが読むきっかけ。宮沢賢治、稲垣足穂を始め、西洋からは幻想作家のホフマン、ノヴァーリスも。蒲松齢が編纂した中国の怪奇譚集『聊斎志異』が好きなので類似系統の中国の古典も読めて良かったです。澁澤龍彦が作中で触れたローマの古典も別の章で掲載。歴史に残る石の愛好家達の逸話や使い方も薬用、護符、絵の具、宝飾、鑑賞用と目的も十人十色。昔の伝説話は、創作では考えつかないような起承転結で度肝を抜かれます。2013/02/20
春色
2
鉱物をテーマに随筆、短編、詩など全部で36作品収録。澁澤龍彦の「石の夢」は流石な出来映え。個人的にはマンディアルグの「石の女」、加藤幹也の「青色夢硝子」、日野啓三「石の花」が好き。2010/12/11
さんくん
1
果たして鉱物のきらめきは人の想像力の賜物なのか、人の歴史時間を超えた大自然的スケールの所産なのか。フーリエ(彼の突飛で超体系的な性愛ファンタジーもまた鉱物への想像力に溢れている)的にいえば、人と自然のコンポジットにその魅力があるということなのでしょうか。所収作品では「貝の火」が一番好み。それからの連想でいえば、今日の鉱物の想像力は愛玩物を超えて巨大ですっかり制御不可能な原子炉にまで変貌してしまいましたが…。すると、正しくクリーンな仕方でものを「産む」ための石の思考が求められなくてはならないでしょう。2019/05/26