内容説明
南米の元独裁者が亡命先のキュラソー島で食事中、ホテルの支配人が毒殺された。休暇で西インド諸島に滞在中のアメリカ人心理学者ポジオリ教授が解き明かす皮肉な真相「亡命者たち」。つづいて、動乱のハイチに招かれたポジオリが、人の心を読むヴードゥー教司祭との対決に密林の奥へと送り込まれる「カパイシアンの長官」。マルティニーク島で、犯人の残した歌の手がかりから、大胆不敵な金庫破りを追う「アントゥンの指紋」。名探偵の名声大いにあがったポジオリが、バルバドスでまきこまれた難事件「クリケット」。そして巻末を飾る「ベナレスへの道」でポジオリは、トリニダード島のヒンドゥー寺院で一夜を明かし、恐るべき超論理による犯罪に遭遇する。多彩な人種と文化の交錯するカリブ海を舞台に展開する怪事件の数々。「クイーンの定員」にも選ばれた名短篇集、初の完訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
geshi
32
なんで探偵小説黄金期にこんな裏をいく作品を書けたのか不思議。当時の読者の偏見すら利用してポジオリ教授を異界で弄ぶミステリの諧謔。『カバイシアンの長官』ではボワロン長官の掌の上で踊っていただけで更に上の階層から丸ごと切り捨てられるオチのキレ。『アントゥンの指紋』『クリケット』は探偵活動を狂言回しにして笑いに昇華させてしまう。『ベナレスへの道』の超展開としか表現できない幕引きはアンチミステリの領域まで数段跳びで到達してしまった、とんでもない幻惑感と衝撃。2020/03/18
雪紫
30
クラニーの蒼色館で紹介された彼自身の翻訳した短編集。「ベナレスへの道」は動機は半分は当たってたけど、最後の一文に衝撃。え、マジで?なんじゃそりゃー!そして解説にも別の意味で衝撃。良かったのは「クリケット」と「ベナレスへの道」。このポジオリ教授本当に名探偵か?とばかりに偉い目にあいすぎだよ・・・(クラニー、影響受けてるね絶対)。2019/12/21
ごへいもち
20
なんともいえない変わった雰囲気のミステリー連作。カリブ諸島という場所なのか、人間の理性・知性を超えるものがあるような。人種差別的な表現も多い。最終作はちょっと「えっ!」という感じ。全体としては好みとは言えない2011/12/11
スズツキ
8
収録されてるほとんどの作品は『ベナレスへの道』の前菜というかおまけに過ぎない。ラストで「え、ちょっと……」と戸惑うこと必至。2010/06/13
タリホー
6
カリブ海に浮かぶ島々を舞台にした連作短編集。心理学者ポジオリ教授を主人公とし、事件に島の風土や支配者と被支配者の関係を織り交ぜて独特な雰囲気を醸し、皮肉な結末で締めているのが特徴。収録作は、元独裁者が滞在するホテルで起こった毒殺事件「亡命者たち」、呪術師と為政長官の抗争劇「カパイシアンの長官」、教授と勲爵士の推理対決「アントゥンの指紋」、本作における探偵像を如実に表した「クリケット」、凄惨な殺人事件の先に待ち受ける衝撃の結末が印象的な「ベナレスへの道」の5つ。2016/06/06