内容説明
探偵作家ジョン・ヒルヤードの邸で作家たちを集めて行われた殺人劇の最中、被害者役の人物が本物の死体となって発見された。殺されたのは放蕩な生活で知られる名うてのプレイボーイ、パーティには彼の死を願う人物がそろっていた。事件の状況から窮地に立たされたピンカートン氏は、その嫌疑をはらすため友人の探偵シェリンガムに助けを求めた。錯綜する証言と二発の銃声の謎、二転三転する論証の末にシェリンガムがたどりついた驚くべき真相とは。緻密な論理性、巧みな人物描写とブロットの妙。本格ミステリの可能性を追求しつづけたバークリーの黄金時代を代表する傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
29
シリル・ピンカートンはエリック・スコットーディヴィスを殺害する決心をしアリバイを作るために殺人ゲームを利用する事にした。計画は順調に進行したがホストのジョン・ヒルヤードがゲームの興趣を盛り上げるために散弾銃を発射するという予想外の事態が起きた。この一発のためにピンカートンの計画に狂いが生じ思いがけず自分が疑われる事になった。2005/06/25
タカラ~ム
19
「A.D.ピーターズに」と題する献辞の中で書いているように、本書はバークリーによるミステリー小説への実験である。事件渦中の人物による語りで物語は進行し、事件発生に至るまでの登場人物たちの人間像や事件の背景が語られる。最重要容疑者となった語り手シリルは、助けを求めた探偵役のシェリンガムに対して「自分を無実を証明してほしいが、真犯人は見つけないでほしい」と要求する。結末に明かされる事件の真相も二転三転して読者を煙に巻く。被害者が相当なゲス男ゆえに容疑者シリルが皆に称賛されるのが面白い。2020/05/12
ぽんすけ
18
読み始めて気づいたんだがこれ学生時代に一回読んだことあるわ。当時はこういう形の推理小説を読んだことがなかったから、衝撃を受けて記憶に残ったんだろうな。作中でロジャーが次々と推理を披露することで容疑者は芋づる式に増えていく。結局警察が状況証拠しか掴んでいないことを逆手にとったわけだけど、こういう畳みかけるような展開にもっていくのがやっぱりうまいなロジャー。最終ロジャーは又犯人を当てられなかったわけだけど、そこがロジャーのいい所だな、とシリーズを読んできてすっかり彼を好きになった私は思うわけである。2025/02/17
ヨッシー
16
おぉぉ、確かにこれは傑作。とにかく最初の100ページ、事件発生までの人間関係が読ませます。そしてシリルが楽しすぎる&アーモレルが可愛すぎる……え、これキャラ萌え小説?と思いきや、やっぱり最後の展開は安定の(というか不安定な)バークリーでした。どうせシェリンガムだから、と構えてたら例によってでしたが、この真相は結構納得出来ます。そのタイミングだったのか、なるほどなるほど。少なくとも『ジャンピング・ジェニイ』よりはだいぶいいですね。現時点でのバークリーベスト3:『試行錯誤』『毒チョコ』、そして本書、かな。2011/12/17
bapaksejahtera
15
田舎の地主の屋敷、少人数で開催のパーティーで評判の悪い社交家が殺される。この男に屈辱を受けた作家志望の男が真っ先に疑われる。男は弁明の為に本事件を題材とした小説冒頭を隠し置いていた、というスタート。1930年の時点で主流だった探偵小説の不自然さ(複雑な状況設定や殺害手段等)が現実の犯罪と遊離している事を指摘する点で面白いのだが、本作では最後の大団円の犯人特定があり皮肉が効いている。不自然なプロットも多いが、真田啓介の長部な解説は、初期の推理作家の大海に埋もれた作家を掬い出す本全集の趣旨に大いに叶っている。2021/10/29