感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
356
どのように了解してよいのか困惑する難解な小説だった。小説全体の構成意識もよくわからないし、プロットの展開の仕方にもしばしば戸惑う。思うに、意識の在り方が夢の論理に従っているのではないだろうか。時に脈絡を欠くように見えたり、前後の文脈からすれば突然のように場面が飛躍したりするのは、その故であるとすれば納得がいく。最初から難渋するのだが、最後に置かれた「魔に憑かれた者」はもうその極めつけである。小説の破壊のようにも見えるし、夜の礼拝堂で展開される狂気のごときイメージで幕を閉じるのであるから。2020/10/16
まふ
105
この作品によってのみ歴史に名を遺す英国女流作家の作品。愛の世界を求めて夫の元を離れてレズの愛欲を追及するロビン、その相手のジェニー、同棲したノラなどとの定まらぬ関係が連綿と語られ、一貫したストーリーが見つからないままに終わる。したり顔で何やら意見を述べ「教導」する医師のオコナーなどもいて愛の世界の真正面からの追求、と言えるのかもしれないが、読んでいてどう読み取ればいいのかが分からないままに終わってしまった。うむ、私は一体何を読んだのだろうか、縁なき衆生、ということか。G631/1000。2024/10/17
藤月はな(灯れ松明の火)
78
「他者への無償の愛」というが、他者への愛が実は自己への愛に摩り替わってしまう事はままある。愛は不可分であるが、付随する理想化により、矛盾を孕んでしまう。その事に苦しみ、愛から離れざるを得ない人は沢山、いるだろう。この本に描かれているのはそういう人達だ。愛する事はなく、他者からの愛へも受動的でしかないロビンも、奪うことで愛を獲得するが、自分とは異質である存在をも愛するという事自体が分からないジェニーも確かにいて。一番、遠い関係にある筈のマシューが聴悔僧としての役割を与えられる事によって一番、苦悩するのが皮肉2018/04/12
NAO
72
夜の森とは、いったい何を意味しているのか。同性を愛さずにはいられないロビンの心の闇なのか。彼女に惹かれずにはいられない者たちの心の闇なのか。ロビンを愛する者たちは、心に闇をかかえているからこそ、同じように心の闇をかかえている医者マシューに話すことで、何らかの救いを得ようとしているのか。この何とも言えない重苦しく暗い世界観は、確かに、夜の森かもしれない。だが、T・S・エリオットが絶賛したというほどには、理解できなかった。2019/03/22
syaori
29
何かを求め夜の底へ失墜していく者たちの物語。「一種の不死」、永遠を求めるフェリックス、彼の妻ロビン、ロビンを愛するノラとジェニー。ノラは「嘆きの母」のようにロビンを求め、ジェニーはロビンを理解できずに苦しみ、習慣=不死を求めるフェリックスの望みでロビンが生んだ息子は「習慣によって安定しない」。彼らは詩のような言葉で己の失墜と退廃を語り、それは救われるためでなく堕ちていくためなのです。彼らの行く先は恐ろしく深く暗くそれでいて美しく、彼らの持つ「エリザベス朝悲劇のそれに匹敵する」恐怖と運命感に恍惚としました。2016/12/16