感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
250
北の都とはいえ、夏のブリュージュは、陽光が街を縦横に走る運河を煌めかせ、涼やかな風がカリヨンの響きを運んでくるだろう。ところが、ここで死が支配する静謐のブリュージュの心象風景は冬である。主人公ユーグは、亡き妻によく似た女、ジャーヌに魅かれていくことで、生の喜びを取り戻したかにも見えるが、それらの時間を支配し続けていたのは一貫して「死」の影だった。エンディングの聖血行列(時は初夏)は、通り過ぎてゆく一瞬の爛熟と、永遠に支配する冷ややかさが交錯する瞬間である。これは、詩的感興をこそ味わうべき小説だろう。2015/10/13
兎乃
31
北原白秋、西条八十、日夏耿之介、とりわけ永井荷風に偏愛されたロデンバック。ローレンバハ、ロオダンバック…、様々な表記があり定着していない。物語は亡き妻の面影を追ってブリュージュを彷徨う男と 妻の面差しそっくりの女、この二人のナンヤカンヤ。主人公は『街』。沈黙に咲く黄昏の街、嘆きの街。翻訳は本書が気に入っている。オペラ化戯曲化、翻案はそれぞれ楽しめるが、人物のナンヤカンヤよりも、街の描写こそに本作の醍醐味があると思う。2015/10/05
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- 和書
- 没後百年河竹黙阿弥