感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
266
表題作を含めて、H.G.ウェルズの短篇を5つ収録する。ウェルズといえば、一般にSF作家として認知されているが、本書の5篇はいずれも幻想文学である。そもそも、現代的な感覚におけるSFとウェルズのそれとは、世代的な(年代的な)違いもあるだろう。初期の頃、日本でSFは空想科学小説と呼ばれていた。ウェルズのそれは、その「空想」を大きく膨らませたものであった。その意味では幻想小説との親和性は高いだろう。篇中では、表題作が幻想小説としての質が高いか。そして、「水晶の卵」が最もSF的であろうと思われる。⇒2025/03/22
KAZOO
37
ボルヘスが選んだらしい感じの小説が、5つ入っています。H.G.ウェルズというとどちらかというとSF的な世界をきちっと描いていますがここの小説はなんとも幻想的あるいは怪奇的な趣味があるように感じます。それにしてもよくこのようなっ小説をウェルズが書いたとは思われません。2014/10/29
内島菫
31
「白壁の緑の扉」の「遅疑逡巡」は、カフカの「服従」「遅延」「無限」のウェルズ版と言えないだろうか。扉の向こうの楽園のような庭はきっと誰もが持っていて、そこに気づけたとしてもやはりこの物語の主人公のように、その扉を開けることに誰もが「遅疑逡巡」せずにはいられないのだろう(一番最初、子どもの頃に見つけたときはできたのに)。その「遅疑逡巡」こそ、人が生きるということなのだ。2018/06/25
藤月はな(灯れ松明の火)
19
ファンタジーチックな表題作と「プラットナー先生綺譚」、「魔法屋」、不気味な照らし合わせにぞっとする「亡きエルヴシャム氏の物語」がお気に入りです。2012/12/01
きりぱい
14
白壁の緑の扉の向こうにあったのは、生涯心をとらえて離れることのなかった世界。見つけたら今度こそ入ろうと思いながら、その度現実世界のしがらみの方を捨て置けなかった男の末路。夢の世界に素直に飛びこむか親の臨終かなんてのは意地悪すぎるけれど、ラストはやっと本懐を遂げて幸せになったと思いたい。幻想風味の5編。爆発事故で行方不明になった先生がどこにぶっ飛んでいたか、戻った時はどうなっていたか「プラットナー先生綺譚」の発想も面白いのだけど、悪夢よりの動揺を抱かせる「亡きエルヴシャム氏の物語」や「魔法屋」の方が好み。2012/06/16