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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
101
メキシコの修道士セルバンドは大司教に盾つき異端審問に付されて追放され、スペインの城に幽閉される。その後様々な事件が発生し、スペイン内をさまよった挙句フランスに入り、それからイタリア各地を巡り、スペインからポルトガルに抜け、イギリスに渡り、さらにアメリカに行き、メキシコへと戻って独立戦争に関わり、キューバ、フロリダへと辿り、メキシコで投獄されて一生を終える。だが、死体は掘り起こされてサーカス一の見世物となって世界をさまよう。まこと「幻想怪奇冒険諧謔歴史思想超現実その他まぜこぜ(ホメ言葉)小説」であった。2023/06/19
ハチアカデミー
24
異端の僧・セルバンド氏の自由への逃亡譚。現実に疑いを持った時、人は狂人となる。現実への懐疑が帰着点の見えない遍歴へと師を誘い、あること無いこと入り交じる伝記を生む。歴史とは事実の結果に過ぎず、その背景に数多の可能性をはらむ。伝記でありながら、想像力によってその多面性を描く試みは、ディアスポラの眼差しによる故郷・西洋・ヤンキー達の風刺とあい混じり、史実には語り得ないめくるめく物語を産む。そして聞こえてくる鐘、鐘の音! 現実に常にアンチを唱えるセルバンド氏の姿にこそ、文学の、物語の持つ力が現れている。2013/04/22
長谷川透
24
実在したメキシコの革命修道士セルバンド・デ・ミエル師の波乱に満ちた生涯を綴った小説であるが、アレナスの想像力によって見事な幻想小説へと姿を変えている。事実を歪めた一代記ではあるが、死後に掘り起こされたミイラとなって世界をめくるめく巡ったセルバンドの眼には、世界は妖しく奇妙に映ったのかも知れない。そして、アレナスが主人公に選んだ男に、彼は祖国を亡命してめくるめく世界を廻った自分の姿を重ね合わせたに違いあるまい。さらにめくるめくる変化と交差を繰り返す人称の変移は、読者が見つめる世界を一層妖しく魅力的にする。2013/01/30
スミス市松
22
夢と現の狭間でさまよう南国の嬰児は、今からおよそ200年前、新大陸メキシコを飛び出しヨーロッパ中を駆けめぐり、たび重なる投獄と脱獄を繰り返して祖国の独立のために奔走した異端の怪僧セルバンド・デ=ミエルと運命的な出会いを果たしたのだった。本書はなによりもまず冒険小説であり、「熱すぎる展開×濃すぎる登場人物=決定的なカタルシス」に満ち溢れている。そしてアレナスのはちきれんばかりの想像力は冒険小説固有の熱気と溶け合い、ここに「王道かつ外道」というまさかの方向へ突っ走った超弩級の南米幻想小説が誕生したのである!2011/09/27
三柴ゆよし
21
再読。原色の想像力は時空間の楔を引き千切り、見果てぬ天涯へと飛翔する。ここに描かれてあるのは、メキシコの妖怪じみた革命修道士の波乱と惑乱に満ちた、ラブレー顔負けの人生であると同時に、祖国キューバという名の監獄に幽閉されたひとりの詩人の、やはり数奇な人生でもある。両者の人生は人称の混在したポリフォニックなテクストを介して絶えず交錯し、ある箇所では、ほとんど精神的対話の域にまで達して、彼我の境界を超越する。<私>と<あなた>の至福の融解。考えてみれば私たちが小説を読むとは、本来かくのごとき体験ではなかったか。2013/01/26