出版社内容情報
各領域における行政と立法、司法のせめぎ合いを丹念に分析し、リスク社会にふさわしい憲法秩序のあり方を探究する。
●「リスク社会」においてあるべき憲法秩序のあり方を探る
リスク社会と言われる現代社会。科学技術の進歩によって、テロや犯罪などの人為的リスクのみならず大規模災害やパンデミックなどの自然的リスクに対してもある程度の対応が可能となった一方で、その対応そのものが、監視や隔離をはじめとした人権侵害のリスクを新たに生み出します。このようにリスクが循環するなかで、リスク対応には専門技術性、広範な裁量および迅速さがますます求められ、国家とりわけ行政機関の役割がますます大きくなっていくことは避けられません。
このような「行政国家」化は、行政・立法・司法の三権のバランシングを企図した憲法秩序の中で、どのように説明し、位置づけることができるのか。本書はこうした問題意識のもとに、監視、犯罪予防、公衆衛生、情報提供、環境問題の各領域における行政・立法・司法のせめぎ合いを現代アメリカや日本の事例を素材にして丹念に分析。とりわけ肥大化しがちな行政作用を憲法秩序の中に誘導していくためにはいかなる仕組みや条件が必要かという点を中心に、リスク社会にふさわしい憲法秩序のあり方を探究します。憲法・行政法研究者のみならず、専門技術性の高い行政実務に携わる人にも必読の1冊。
序章
第1部 総論
第1章 憲法とリスク――リスク社会における立憲主義のモデル
序
I リスクのスパイラル
II 現代立憲主義とリスク問題
III リスク社会とバランシングアプローチ
IV 21世紀におけるマクロ的リスク――9.11後の憲法状況
後序
第2章 行政国家とリスク社会――行政によるリスク対応とそのリスク
序
I 行政による憲法価値の実現
II 執行府/行政機関の憲法解釈
III パターナリズムの蔓延
後序
第3章 行政国家における憲法秩序の形成――行政立憲主義の概念
序
I 行政立憲主義
II 高次立法に基づく行政立憲主義
III 政治的統制による秩序形成
IV 狭義の行政立憲主義の憲法秩序
V 司法的統制による秩序形成
VI 内部的統制
後序――行政国家における憲法秩序の形成に向けて
第2部 各論
第4章 監視とリスク――9.11後のテロ対策を素材にして
序
I 2005年の盗聴問題
II 執行府の情報収集
III NSA盗聴事件の憲法問題
IV 司法および立法の統制
V プリズム問題(2013年盗聴問題)
VI 今後のゆくえ――オバマ政権の政策転換と立法動向
後序
第5章 犯罪予防とリスク――性犯罪予防を素材にして
序――リスクの個人化
I 性犯罪のリスクと性犯罪予防
II 刑事手続に関する連邦最高裁の判例
III 自由の利益(liberty interest)の動揺
IV 移動制限およびGPS装着の問題
V プライバシー侵害の検討
VI 情報プライバシー
後序
第6章 公衆衛生とリスク――感染症対策を素材にして
序
I 公衆衛生に関する国家の責務
II パンデミック対策と人権制約問題
III 隔離とデュープロセス
IV 生命の優先順位と平等――感染症対策の給付的側面
V 公衆衛生監視とプライバシー権
後序
第7章 情報提供とリスク――食の安全に関する情報を素材にして
序
I 国家による情報提供のリスク
II 国家の情報提供と信用毀損
III カイワレ訴訟の判例法理
IV 法的統制と法的責任の行方
V 報道機関による情報提供のリスク
VI 農作物信用毀損法の憲法問題
VII さらなる課題
後序
第8章 環境問題とリスク――温室効果ガス規制を素材にして
序
I 環境問題の特殊性と執行府の対応
II 温室効果ガス規制の準備――司法の後押し
III コンパニオンケース
IV オバマ政権における温暖化規制と司法判断
後序――温暖化規制と司法
終章
【事項・人名索引・主要判例索引】
内容説明
専門技術性と広範な裁量が求められるリスク対応においてますます高まる行政の役割。監視、犯罪予防、公衆衛生、情報提供、環境問題における行政権と他権との応酬を考察し、三権のバランシングのあり方をはじめ「リスク社会」にふさわしい憲法秩序を探究する。
目次
第1部 総論(憲法とリスク―リスク社会における立憲主義のモデル;行政国家とリスク社会―行政によるリスク対応とそのリスク;行政国家における憲法秩序の形成―行政立憲主義の概念)
第2部 各論(監視とリスク―9.11後のテロ対策を素材にして;犯罪予防とリスク―性犯罪予防を素材にして;公衆衛生とリスク―感染症対策を素材にして;情報提供とリスク―食の安全に関する情報を素材にして;環境問題とリスク―温室効果ガス規制を素材にして)
著者等紹介
大林啓吾[オオバヤシケイゴ]
1979年那覇市生まれ。2002年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2007年慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。現在、千葉大学大学院専門法務研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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