内容説明
1970年代初め、雑誌編集者だった「わたし」は、文豪川端康成のふとした一言から崔承喜というバレリーナの存在を知る。以来三十有余年、物書きとなった、「わたし」は、川端が激賞してやまなかった彼女にあらためて興味を持つ。承喜は1926年(大正15年)、10代半ばにして、日本の統治下にあった朝鮮半島から日本へ。日本近代バレエの創始者石井漠の秘蔵の弟子となり、やがて世界的に知られる存在となる。太平洋戦争終結後、マルキストだった夫と共に北朝鮮に渡った彼女は、金日成の寵愛を受けて出世するも、粛清の嵐に巻き込まれて北の闇に消えた。「わたし」はその足跡を追って歴史の迷宮に分け入った―。世界で名を轟かせながら、人々の記憶から消し去られてしまった実在の人物の謎に迫る超大作。
著者等紹介
西木正明[ニシキマサアキ]
1940年秋田県生まれ。早稲田大学教育学部中退。出版社勤務を経て作家活動に入る。1980年『オホーツク諜報船』で第七回日本ノンフィクション賞新人賞を受賞。88年「凍れる瞳」「端島の女」で第九十九回直木賞を受賞する。95年『夢幻の山旅』で第十四回新田次郎文学賞を、2000年には『夢顔さんによろしく』で第十三回柴田錬三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さんつきくん
6
900pの大作ではあるが、スリル感はなく、淡々としていた印象。読後の余韻は真実は小説より奇なりを地で行く物語だった。って言っても小説なんだけれどね。崔承喜は戦前の朝鮮半島は京城(現在のソウル)で生まれ育った。モダンバレーの石井漠へ弟子入りし日本本土へ渡る。腕を研いた崔承喜は日本はもとより世界で名声を得る。東洋が世界に誇る伝説のバレリーナとなったのだ。が、晩年の崔は北朝鮮に渡り、朝鮮戦争、権力闘争に身をさらされ、1967年に粛清され、消息を絶つ。日本に残っていれば、と思わずにはいられない。2021/07/14
ゆずこまめ
3
北朝鮮、怖い・・・才能のあったバレリーナが北朝鮮の権力闘争に巻き込まれて消えていくまでのお話。戦前の欧米も知っている人がこうなるのは切ない。日本とも縁のある人なだけに余計・・・2010/09/02
sataz
2
戦前から活躍したモダンバレエの踊り子崔承喜チェスンヒの生涯。ソウル出身だけど、日本人に師事、左翼系だった夫の影響で戦後は平壌に。才能溢れる踊りとその探求、欧米含む文化人との交流、そして北での権力闘争。最後が特に印象的。北朝鮮初期の事情もわかった。 例えば、金日成は、ゲリラが支持基盤で、親中、親ソ派より無教養者が多く、無理な神格化で権威化したとのこと。親中か親ソが勝っていれば、ちょっとはましな国になっていたのかも。2012/01/27
印度 洋一郎
2
戦前、日本国内では絶大な人気を誇り、アメリカやヨーロッパでも公演していた世界的モダンバレーの旗手、崔承喜。その生涯を丹念な取材で描き切った大作であり、正に波乱万丈、栄光と絶望の軌跡だ。900ページをほぼ一日で読了してしまうほど、引き込まれた。戦前にこんな人物がいたことに驚嘆させられたし、それが祖国北朝鮮で過酷な末路を迎える悲劇が切ない。一家そろって逮捕され、後は消息不明という理不尽な結末の後、一体どんな運命を辿ったのか、後に死亡が発表されてはいるが、知りたくもあり、知りたくない気もする。2010/10/31
メルセ・ひすい
2
13-130 赤75 川端康成を魅了した絶世美女・待ち受けたのは野望渦巻く政治の世界。騒乱の半島 石井漠のモダンバレーが縁で渡日。時代の流れに翻弄されながら金日成の朝鮮へ・…日韓併合後の朝鮮で果たしたバレエとの運命的な出合い。第2次世界大戦へと突き進む、混沌とした世界情勢のなか、日本、朝鮮、米国を舞台に、激動の時代を駆け巡ったひとりのプリマ。実在の人物の謎に迫る。初出「小説宝石」`03.01~`06.04 火野葦平 音羽信子 杉村春子 芥川也寸志 石原慎太郎が芥川賞をゲットした時代… 2010/09/01