内容説明
建築家に生まれ、「美」の意味を問い続ける猫―人気ミステリィ作家・森博嗣が新進画家と共同で生み出した、静謐な物語。
著者等紹介
森博嗣[モリヒロシ]
1957年、愛知県生まれ。1996年、『すべてがFになる』(講談社)で第1回目メフィスト賞を受賞し、デビュー。以後、続々と新刊を発表、たちまち人気ミステリィ作家となる
佐久間真人[サクママコト]
1973年、愛知県生まれ。1993年ごろから、本格的に創作活動をはじめる。公募展入賞多数。1998年より毎年、銀座の画廊「ボザール・ミュー」にて個展を開催
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
174
あてもなく歩いて、手探りしても触れられないものは、思考することにより見つかるだろう。よく観察することも必要だろう。目の前にある物体のすべてには意味がある。あるはずである。それは動かない。動こうとしない。もし動き出したとしても、そこに自由はみえない。猫は探す。動くとはなにか。猫は考える。形とはなにか。しかし答えてくれない。答えはあるはずなのに、答えのないものもあるのだろうか。思考の先には必ずなにかがあるはずなのに、ここにいる誰もが知らない。形のないものを探り続ける日々が、どれほど幸福なのだろうか。美しき心。2024/06/22
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
116
断章のようなパラグラフが連なって静謐で思索的な物語を紡ぎ出す。建築家として幾たびかの生を受けた猫。『造形』と『共生』がライフワークで、常に『形』と『機能』の関係性を考えている。やがて、機能では説明できない存在に気づき、猫は一つの仮説を立てる。これは『美』ではないか、と。猫たちには分からない。見たことも、触れたことも、なめたこともないからだ。それでも未知なるものへの興味は尽きない。人が宇宙の果てに神秘を感じるように、猫は『美』について思いを馳せる。猫には哲学がよく似合う……気がする。2002年10月初版。2016/01/18
あも
97
心の中の書棚の隅にそっとしまっておきたいような美しい絵本。猫は建築家だった。何度生まれ変わっても残る『美』について猫は考える。何かを産み出そうとする者は、『美』とは何かという問いから逃れることはできない。それは『哲学』である。草原も、街も、電車も人間の家も。猫にとっては等しく『自然』という視点が素晴らしい。動物が建築した巣を人間は『自然』だと認識している。その逆もしかり。猫は自然の『内と外』を自由気ままにあるき思索する。美しさはどこにある?それは形や色や目に見える外にはない。それを感じる心の内にあるのだ。2019/05/21
(C17H26O4)
91
【猫本を読もう 読書会】猫がふと佇むとき。ふと歩き出すとき。空を見上げるとき。下界を見下ろすとき。猫は思考する。美について。取り巻く造形について。そびえ立つ自然について。足音もたてず、静かに。猫は、止まる時間の中で動いて思考し、動く時間の中で静止し思考しているように見える。硬質な風景としなやかな線で描かれた猫の身体の対比や猫から見た空間の広がりが、独特で魅力的な世界観を作り出している。むずかしい問いについてぐるぐると真剣に思考する猫の建築家は、とても猫です。2019/02/07
雪うさぎ
74
少し古びたライカを持って、猫はいつもの散歩に出掛ける。美の公式を探しにいくのだ。美にもオイラーの等式のようなものがあるのではないのかと。家を出て、信号で止まって、地下道の前で、パシリパシリ。行きつけの場所、生まれたところも、パシリパシリ。猫はただあてもなく歩いているのではない。美とはなにかを考えているのだ。歩く度に新しい発見があり、思慮が深まる。錆びて動かなくなった鉄の塊や、白い雪の上に残された自分の足跡にさえも美があると思うのだ。建物と猫だけの静かな世界だが、そこに人の営みの名残を感じた。2015/04/18
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