内容説明
侠客の父と、ネグレクトの果てに自死した母。彼は17歳で天涯孤独となった。喧嘩と女に明け暮れ、全財産6万円を握りしめ上京。そして、薬物に溺れ、どん底に堕ちた―。もがく男と、巡る人間たちに光をあてる、絶望と再生の物語。
著者等紹介
高知東生[タカチノボル]
1964年高知県生まれ。1993年芸能界デビューし、排優として、大河ドラマ『元禄繚乱』、映画『新仁義なき戦い/謀殺』などドラマや映画で活躍。2016年覚醒剤と大麻の所持容疑で逮捕。懲役2年、執行猶予4年の判決。現在は、俳優復帰を果たしたほか、依存症の啓発や人が再起していく様子を描く「リカバリーカルチャー」を広める活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
304
元俳優・高知東生さんの自伝的小説デビュー作で「アロエの葉」「シクラメン」「喧嘩草」「昼咲月見草」「リラ」「梔子」の6編で実名を変えてこれまでの人生に関わって来た人々の生きざまを花に例えて描かれています。私は先入観で任侠道のおっかない話だろうかと思っていたら全然そんな事はなく生きるのに不器用な人々を哀愁とユーモアで描いた青春小説の趣きでしたね。タイトルの「土竜」は本文には出て来ませんが、芸能界から姿を消した自身を地中に潜った存在として表現されたのだろうなと想像します。古い昭和の香りが漂う昔懐かしい小説です。2023/03/05
ゆのん
69
まずは『高知東生ってあの俳優の?小説なんて書いたのかぁ。』と思い、次に重松清が帯を書いているのに驚いた。高知東生の事件は薄らと記憶にあるものの普段からTVよりも読書、芸能ニュースにも興味無い為、小説とはいえ事実をベースにしている幼少期からの壮絶な人生に驚くと共に物語に惹き込まれた。私個人としては、様々な事情は薬物使用の理由にはならないという考えだが、その一方でやり直すチャンスは与えられるべきとも思うし、頑張って欲しいとも思う。物語は壮絶で哀しみ、寂しさに溢れているが静かな美しさも感じる。映像化して欲しい。2023/02/10
あらたん
67
依存症からの回復支援活動を続けている高知さんを個人的に応援していてこの本を手に取った。章が異なるごとに語り部が変わり構成もかなり凝っている。内容も面白い。確かに、本当に本人が書いたのか?と思わせる出来でした。人はいつからでもやり直せる。2024/08/30
中玉ケビン砂糖
67
「重松清激賞」という太鼓判が強い。が、それを引いても「よくもそれを描き切った膂力」は事実だろう。サーガと呼ぶにはもちろん仰々しいが、戦後から「いまここ」に至るまで、三世代をしぶとく生ききる「家族」の姿・あり方。むせ返るほど強烈な土佐弁をまくし立てて成り上がりを夢見る男たち。全編を貫く、分身としての主人公「竜二」の成長、ないしは転落譚。「ばらのつぼみ」にも似た聖母を思わせる「おんな」。2023/08/05
R
55
私小説のようでもあるが、半生記や青春期といった記録めいた内容に近しいものだった。昭和の高知県を舞台に荒ぶっていた少年時代を経て、次第に成長していく主人公の物語として序盤は結構楽しく読めた。東京に出てから、主人公の人格が変わったんじゃないかというくらい迷走しはじめてしまうのがもったいなかったけど、事実そうだったのかもしれないと思うと、なんとも切ないと感じたのである。不良少年の生きざまというのは、本当に一瞬の輝きで、大人になるとその輝きが失われてしまうのだと思い知らされるようだった。2023/05/14