出版社内容情報
朝倉かすみ[アサクラ カスミ]
著・文・その他
内容説明
朝霞、新座、志木―。家庭を持ってもこのへんに住む元女子たち。元男子の青砥も、このへんで育ち、働き、老いぼれていく連中のひとりである。須藤とは、病院の売店で再会した。中学時代にコクって振られた、芯の太い元女子だ。50年生きてきた男と女には、老いた家族や過去もあり、危うくて静かな世界が縷々と流れる―。心のすき間を埋めるような感情のうねりを、求めあう熱情を、生きる哀しみを、圧倒的な筆致で描く、大人の恋愛小説。
著者等紹介
朝倉かすみ[アサクラカスミ]
1960年北海道生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞、2004年「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞。2009年『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
862
朝倉かすみは初読。山本周五郎賞を受賞したエンターテインメント小説なのだが、それにしてもことさらに通俗的であろうとするのはどのような意図からなのだろうか。端的には各章のタイトルがそうなのだが、文体表現(とりわけ会話文)もまた過剰なくらいに通俗を指向する。中年男女が行き会ったギリギリのところでの愛はなんだか物寂しくあわれでもある。そうした徹底したリアルさの追求の結果がこれなのだろうか。互いに須藤、青砥と呼び合い、最後はすれ違いのままに終焉を迎える。それゆえの存在の確かさが残るといえば、確かにそうだ。2023/09/23
starbro
839
第162回直木賞発表の当日に、漸く前回161回直木賞候補作をコンプリート(6/6)しました。新作ハンターとしては失格です。本書は、アラフィフ・ノスタルジー・ラブストーリーの秀作でした。直木賞受賞には少し地味だったのかも知れません。アラフィフで、埼玉県在住で、大腸癌(早期のため5年以上寛解)・ストーマ経験者の私としては、身につまされる思い、読んでいて大変辛くなりました。2020/01/15
ミカママ
714
最初に言っとくけど、このモチーフはズルい。それを差し置いても、言葉の選び方、音楽的な文章がスゴい。そしてラスト1ページの畳み掛けるような倒置法は最上級。思わず鋼鉄の涙腺緩んだ。同年代だったらおそらく誰でもそうであると思うが、身近な誰かを思い浮かべてしまう。わたし自身で言えば、若くして大腸がんで亡くなった従妹、ン十年後に再会した中学時代の初恋の彼。そして同じ状況に陥ったとき、わたしは現在の相方にどう対峙できるのかなどなど。否応にもそのプロットに寄り添わさせられて読了したのだった。朝倉さん、上手くなったなぁ。2019/09/30
ウッディ
703
医師から再検査を言い渡された日、青砥は病院の売店で、中学時代の同級生で、かつて告白して断られた須藤と再会する。たわいのないおしゃべりで距離が縮まった時、須藤が検査で大腸癌であることがわかる。恋人同士でありながら、互いに「青砥」「須藤」と苗字で呼び合う関係が、元同級生らしく、完全に寄り掛かっていけない頑なさが、もどかしい。浜田朱里とか夏色のナンシーとか、2人と同じ時代を生きた自分が、今、読むからわかる彼らの想いや一つ一つの言葉が本当に切なかった。胸に刺さりまくる一冊で、とっても面白かったです。2019/09/01
鉄之助
685
つい最近、私にもあった。この本に出てくるような出会いが! 小中学校の同窓生と40年以上ぶりに再会し、日本酒の飲み比べの宴でしたたかに酔ってしまった。『平場の月』このタイトルがいい。「ひらたい地面で もぞもぞ動くザッツ・庶民」普通のありふれた日常が、愛おしいくらいに丁寧に描かれる。久しぶりの出会いから、「この人と生きていきたい。死ぬまで一緒に生きたい」という関係に。「結婚という形」にこだわる必要がない! と感じた時には、もう相手はこの世にいなかった。太陽と違い「月」は、しみじみと空にかかっている。→続く2024/09/15
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